六義園・東洋文庫

園内で唯一の明治期の建物がこの『つつじ茶屋』である

「回遊式築泉庭園」と説明のある六義園だけれど、実際その通りに”回遊”してみて驚いたのは、こんなにたくさんの趣向が隠れていたのかということだった。何しろひとつの趣向から数10mも行くと次の趣向が現れるわけで、その趣向というものは庭園の施主であった柳沢吉保が自分の好きな和歌にちなむ「八十八境名勝」を庭園内に設定したことによる。名勝が八十八もあるのだから、回遊者としては対応に忙しいくらいの名勝見物なのである。イラストにした『渡月橋』は「若の浦芦辺の田鶴の鳴くこゑに夜渡る月の影ぞさびしき」というココロで渡るのだが、その隣には「妹背山中に生たる玉ざさの一夜のへだてさもぞ露けき」なる恋心をしのぶ妹山背山(中の島)があり、そのまた隣は「和歌の浦に月の出汐のさすままによるなくたづのこゑぞさびしき」の状況を表す出汐湊の海岸が造られている。つまり各地の名勝を和歌をもとにしてスライドショーのように見せてくれるので、昔の人には相当なエンターテインメントだったに違いないのだ。そこで僕のように歌道に暗くて提灯が必要な者は不安になるのだが、園内の要所には必ず親切な説明があるので心配はいらない。

東洋文庫は、名称だけは知っていたけれどたいへんな蔵書施設であるとは知らず、正直驚いた。けれども研究者でない一般人が閲覧するのは無理だろうと思って訪ねたところ、インターネット検索ができて公開もされているというので、これからはぜひ利用したいと思って退出した。(小林)

大石を2枚つなげた『渡月橋』は和歌にちなむ名称だ
『モリソン書庫』に並ぶ貴重な書籍は事前申請すると閲覧室で読むことができる

江戸の二大庭園として知られる『六義園』は、1695年に徳川綱吉より下屋敷として与えられた駒込の地に、柳沢吉保が設計・指揮し、7年の歳月をかけて造られた回遊式築山泉水庭園。

江戸から明治にかけて一時荒廃するも、1878年に三菱創始者である岩崎彌太郎の所有になったことをき っかけに再び初期の輝きを取り戻し、その後1938年に東京市に寄付され現在に至る。つつじの古木を柱に用いて建てた『つつじ茶屋』など、岩崎家が築いた時代の名残を現在でもとどめており、長い歴史を感じさせる。

六義園から歩いて数分の場所にある東洋学の専門図書館・研究所である『東洋文庫』は、1917年に三菱第三代目社長の岩崎久彌が、当時中華民国の総統政府顧問を務めていたジョージ・アーネスト・モリソンが所蔵する欧文文献の膨大なコレクシ ョン、『モリソン文庫』を購入したことに始まる。ヨーロッパやアジア諸言語の文献を多数所蔵しており、現在、総数は約100万点にも及び、なかには国宝や重要文化財も。『モリソン文庫』を含むミュージアムでは、その季節ごとに展示が行われてアジアの歴史・文化に触れることが可能。また、ミュージアムには『オリエント・カフェ』が併設されており、展示を見終わった後に立ち寄ってひと休みできるのもうれしい。
(協力=六義園、東洋文庫、三菱史料館)

六義園

●住所/東京都文京区本駒込6
●アクセス/JR・東京メトロ南北線「駒込」駅より徒歩7分
ご来園の際は、入園料や休園日など事前にご確認ください。

東洋文庫

●住所/東京都文京区本駒込2-28-21
●アクセス/JR・東京メトロ南北線「駒込」駅より徒歩8分、都営地下鉄三田線「千石駅」から徒歩7分
ご来館の際は、入館料や休館日など事前にご確認ください。

こばやし・やすひこ/イラストレーションを中心に小説の挿絵、本の装丁、絵と文によるレポートも手掛け、国内外にもよく出かけることから旅の名人としても知られる。著書には『ヘビーデューティーの本』(山と渓谷社)などがある。