静嘉堂文庫

静嘉堂文庫の建物はイギリスの郊外住宅のイメージで設計され1924年(大正13年)に完成した

東京都内とは思えない樹林や流れがあって心が休まる静嘉堂文庫の環境

静嘉堂文庫はぼくの家から自転車でいける距離にある。ぼくの家は世田谷区深沢で静嘉堂文庫は同区の岡本、直線距離で約2・8キロだ。岡本には岡本民家園とか丸子川親水公園があり、その先に野川、それを下った多摩川には自転車コースがあるから、ぼくの自転車散歩はこの方面が多く、従って静嘉堂文庫の近くを度々通るのだが、実は静嘉堂文庫を訪ねたことがない、というか静嘉堂文庫の入口がわからなかった。

静嘉堂文庫については多少の知識がある。国宝や重要文化財、古典籍とか古美術が多数ここにあるのはずっと前から知っていたし、民家園の辺りには静嘉堂文庫の案内もある。あるとき徒歩で坂道を上って行くと「静嘉堂文庫裏口」とある門に出合っておどろき、ここだったのかと思って塀沿いに正面口を探したけれどわからなかった。それで静嘉堂文庫は縁が遠いなあと思った。

なので、この取材のためにようやく静嘉堂文庫を訪ねることになり、かねて知っていた裏口から入って美術館、文庫(取材のための訪問で一般には非公開)、岩崎家霊廟、庭園と見学して最後に正門を教わった。それで長い間の疑問がようやく解けた。

静嘉堂文庫収蔵の文化財の価値については言うまでもなく、また文庫と霊廟の有名な建築についてもここでは一応置き、感心したのは静嘉堂文庫敷地内の樹林のすばらしさだ、そして多摩川の河岸段丘上の自然林がルーツと思われるこの樹林もまた、静嘉堂文庫の大きな財産にちがいないと思った。(小林)

静嘉堂文庫略図

世田谷の閑静な住宅地・岡本にある静嘉堂。文庫と美術館を囲む静嘉堂緑地には広大な緑が広がり、美術館裏の庭園には春先になると梅の花が鮮やかに咲き誇り、秋には紅葉を楽しむことができる。都会の喧騒を忘れさせてくれる穏やかな時間が流れている。
静嘉堂は岩崎彌之助と小彌太の父子二代によって設立され、現在国宝7点、重要文化財84点を含むおよそ20万冊の古典籍と6,500点の東洋古美術品を収蔵している。図書を中心とする文庫(大正13年竣工)は、明治25年の創設以来、和漢の古典籍を収集し、保存を主とした専門図書館として活動している。
美術館は、文庫創設百周年の記念事業として建設され、平成4年にオ ープン。彌之助のコレクションが絵画、書跡、漆芸、茶道具、刀剣など幅広い分野にわたっているのに対し、小彌太のコレクションは中国陶磁を系統的に集められており、それぞれの個性が光っている。10月からは「漆芸名品展—うるしで伝える美の世界—」が開催され、彌之助のコレクションをはじめとする国内外の貴重な漆芸を堪能することができる。
(協力=静嘉堂文庫・美術館、三菱史料館)

静嘉堂文庫美術館

●住所/東京都世田谷区岡本2-23-1
●アクセス/東急田園都市線(地下鉄半蔵門線直結) 「二子玉川」駅より4番バス乗場から東急コーチバス「玉31・32系統」で「静嘉堂文庫」下車、徒歩5分。小田急線「成城学園前」駅南口バス乗場から「二子玉川駅行き」バスで「吉沢」下車、徒歩10分。
※静嘉堂文庫の利用案内についてはホームページをご覧ください。

こばやし・やすひこ/イラストレーションを中心に小説の挿絵、本の装丁、絵と文によるレポートも手掛け、国内外にもよく出かけることから旅の名人としても知られる。著書には『ヘビーデューティーの本』(山と渓谷社)などがある。