プロフェッショナルの目線 Vol.6 豊かな感性を育む子ども部屋のつくり方

プロフェッショナルの目線 Vol.6 豊かな感性を育む子ども部屋のつくり方。

[暮らしのアイデア]

2016年08月17日

「理解する力」「考える力」「説明する力」が3拍子そろった子どもを育む子ども部屋と勉強部屋のあり方を、子育て住宅のプロデュースを手掛ける四十万 靖さんに解説していただきました。

話=四十万 靖(スペース・オブ・ファイブ代表)
慶應義塾大学卒業。著書『頭のよい子が育つ家』(日経BP社)をベースとした住宅プロデュースや家具のプロデュースなどを行っている。

text by Seishi Isozaki

目線1

子ども部屋=勉強部屋と考えない

「子どもにしっかり勉強させたい」「頭のよい子に育ってほしい」。これは多くの親御さんが抱く願いだと思います。そして、その願いを実現するために、子どもに個室と学習机を与えるのではないでしょうか。でも実は、閉めっきりの個室は、勉強にあまり向いていないのです。私たちは過去に中学受験に成功したお子さんを持つ200世帯以上のご家庭を訪問し、生活・学習環境に関する実態調査を行いました。その結果、ほとんどのお子さんが子ども部屋で勉強していないことが分かったのです。

子どもたちはダイニングテーブルやリビングの片隅み、お茶の間のこたつなど、それぞれお気に入りの場所で勉強していました。それらの場所に共通していたのは、家族、とりわけ母親の気配を感じられる場所であるということ。家族となんとなく「つながっている」という安心感が、子どもたちの集中力を高めていたというわけです。

では子ども部屋が必要ないかというと、そんなことはありません。〝自分の領域〟が守られる子ども部屋は、成長過程の子どもにとって精神的な拠り所となり、自立を促すのに重要な役割を果たします。また、学校や塾などで使う教材やお稽古事の道具など、自分の持ち物をきちんと整理し、管理する力を養うためにも、子ども部屋をつくる意義はあるのです。

ただその一方で、子ども部屋は親の目が行き届かない〝孤立した空間〟になる可能性があるということも忘れてはいけません。勉強も遊びも睡眠も、生活のすべてがそこで完結するような〝立派な個室〟を与えた結果、子どもがそこに閉じこもるようになっては本末転倒。親子が互いの気配を感じ、いつでも声をかけられる〝風通しのよさ〟を実現することのほうがはるかに重要です。

新しく子ども部屋を設けるなら、できればリビングやお茶の間など、家族みんなで使うスペースから見える、またはそこを通らないとアクセスできない部屋を割り振りましょう。そうすれば、外出・帰宅時には必ず親と顔を合わせるようになり、自然と会話の機会が増えるはずです。家を新築したり、リフォームしたりする場合は、思い切ってドアを無くすという手もありますが、無理なら、子ども部屋のドアを開けておくことを習慣づけるだけでも、ぐんと〝風通し〟はよくなります。

子ども部屋=勉強部屋と考えない

幼いうちから子ども部屋を与えることで自立心を養うことができるが、ここを〝勉強部屋〟にする必要はない。幼い姉弟が共有するこの部屋は、主に遊んだり眠ったりするために使われている。

目線2

子どもにとっては、家全体が勉強部屋

「せっかく子ども部屋があるのに、そこで勉強しない」。その理由のひとつとして、学童期の子どもはまだまだ精神的に幼く、「お母さんに構ってほしい」「お母さんに褒められたい」という気持ちが強いことがあげられます。実際、一人でいるより、お母さんのそばで、ときどきおしゃべりしながら勉強するほうがずっとはかどるのですから、子ども部屋は当面寝るための部屋と割り切り、家中をウロウロしながら勉強できる環境をつくってしまうのが得策です。実際、人は一か所にじっとしているより、体も適度に動かしたほうが脳が活発に働くようです。また、そのとき置かれている空間や環境が思考に大きな影響を与えることも、さまざまな学問で証明されています。そのときの気分や勉強内容に応じて場所を変えるのは、理にかなっているのです。

具体的には、教材一式を持ち運べる移動式のミニデスクを用意する。家中あちこちに本棚を設置する。ホワイトボードやガラス黒板などを設置して、思いついたことを書き止められるようにしておくなど、さまざまな工夫ができると思います。このとき大切なのは、こうした本棚やボードを子ども専用にせず、家族全員で共有し、コミュニケーション・ツールとして活用することです。

たとえば本棚にお父さんが昔読んだ本があれば、子どもは自然と興味を持ち、それをきっかけに会話が弾むことでしょう。特に興味を持ってほしい本には、メッセージを書いた付箋を貼っておいておくのもいいかもしれません。こうしたやりとりのなかで、子どもの知的好奇心や探求心が芽生え、向学心が高まってゆくのです。また、ホワイトボードやガラス黒板を介したメッセージのやりとりは、子どものコミュニケーション能力を伸ばすのに効果的です。

子どもは会話を通して、基本的なコミュニケーション能力を身につけますが、「書く」ことでその力は一層磨かれます。文字という目で見えるかたちにすることで、改めて自分の考えを客観的に整理することができるようになるからです。こうしたコミュニケーションの積み重ねは、親子の信頼関係を深めるのみならず、子どもの「理解する力」「考える力」「説明する力」を養います。そしてこの3つの力を備えることが、学問の基礎となるのです。

子どもにとっては、家全体が勉強部屋

表紙を見せることで本への興味を促すディスプレイ本棚はリビング収納としても最適。キャスター付きの可動式デスク(手前)を取り入れれば、好きな場所を勉強スペースにできる。

目線3

成長段階に合わせて変化をつける

複数のお子さんがいて、子ども部屋として使える部屋も複数ある場合、成長段階に合わせて子ども部屋の割り振りを変えるようにするといいでしょう。お子さんの年齢差や性別にもよりますが、「孤立化」を避けるためにも、幼少期から学童期にかけては、ひとりひとりに個室を与えるより、兄弟・姉妹で共用する寝室と作業部屋とに分けることをおすすめします。

男の子と女の子がいる場合には、思春期を迎えるタイミングで個室に分け、兄弟・姉妹がひと部屋を共有する場合は、パーテーションで区切るなど、その都度臨機応変に対応していけばいいのです。初めから個室を割り振った場合には、ときどき部屋をチェンジしてみるのも面白いでしょう。場所を変えると頭も切り替わると前段に述べましたが、この小さな引っ越しもまた、気分をリフレッシュさせてくれるはずです。

また、こうなるともはや「子ども部屋」とはいえなくなりますが、寝室と作業部屋に分けた場合、作業部屋はお父さんも共用していいと考えています。前述したとおり、年端のいかない子どもにとって母親の存在感は圧倒的で、家庭内のコミュニケーションもお母さんが中心となっていることがほとんどです。
でも、ときにはお父さんにも存在感を示してほしいのです。お母さんほど言葉を交わせないかもしれませんが、〝空間を共有する〟ことも立派なコミュニケーションです。子どもが宿題をしている横で、調べものをしたり、資料に目を通したりするだけでも構いません。黙々と仕事をする父親の姿に、子どもはきっと「頼もしさ」を見出すはずです。そしてお父さんの頼もしさは、子どもに安心感を与えるということを忘れないでください。

成長段階に合わせて変化をつける

子どもの成長に合わせて間取りを変えることもできる、自由な設計を取り入れた家の例。

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