プロジェクトリポート「ザ・パークハウス 晴海タワーズ」未来の都市生活を予感させる、フラッグシッププロジェクト。
2016年11月22日
2000年以降、都心の新たな住宅地として着目されるようになった湾岸エリア。さらに近年は、複数の大規模開発が予定されており、さらなる発展が期待されている。その一角に建てられることになった、フラッグシップに位置づけられるザ・パークハウス。世界的な建築家にファサードとランドスケープを依頼するに至った、プロジェクトメンバーの思いに触れる。
text by Yuji Iwasaki
photos by Yoko Sawano
対岸から望む『ザ・パークハウス 晴海タワーズ』。海辺の景観に映えるデザインとなっている。右側がティアロレジデンスで、左側がクロノレジデンス。
開発前の晴海2丁目エリア。中央から左に伸びるのは晴海大橋。
『ザ・パークハウス 晴海タワーズ』の最大の特徴は、銀座まで約2.5㎞、丸の内まで約3.5㎞という都心部に近い距離でありながら、晴海運河に面した開放感や緑豊かな周辺環境にも恵まれた立地にある。これだけの好条件を備えた立地にはなかなか出合えるものではなく、「最後に残された場所」という言葉も聞かれた。
10数年前にプロジェクトが立ち上がり、その初期段階から関わってきた三菱地所レジデンス・街開発事業部の亀田正人はいう。「もともと晴海エリアは、行政によって街づくりの方針が定められていました。そして、開発地周辺は線路敷きが残り敷地が入り組んでいたうえ防潮堤外地であったため、そもそも開発が困難とされていたんです。ところが、防潮護岸開発事業が立ち上がり、基盤整備をできることになり状況は大きく変わりました」
開発地の造成は通常のプロセスだ。しかし、堤防づくり、土地の整形、電線・電柱の地中埋設化などの整備から開発に関わるケースは、亀田も経験したことがなかったという。かくして『ザ・パークハウス 晴海タワーズ』は、ザ・パークハウスブランドのフラッグシップに位置づけられる住宅として、その計画が進められることになった。
巨匠、マイヤー氏との出会い。
亀田とともにプロジェクトに参画したメンバーのひとりに、設計担当の榎並秀夫がいる。榎並はツインタワーの基本コンセプトを詰めると同時に、海外の建築家にファサードやランドスケープのデザインを依頼するための実務を進めるメンバーでもあった。
「まず、15件くらいの候補者をリストアップして、打診のレターを発送しました。その後、実際に会ってくれることになった10件ほどの候補者の中から、4人の建築家に絞り込んでインタビューを行うことにしたんです」
マイヤー氏のオフィスにて。テーブル奥に座っているのがマイヤー氏。複数のデザイン案が貼られている。
レターには、建物が集合住宅であること、そのファサードとランドスケープのデザインを依頼したいこと、特徴的なロケーションの概要などについて記していた。インタビューでは、想定している作業プロセスや物理的な諸条件について詳細を説明し、どのようなスタンスで取り組んでくれるのかを含め、建築家本人の意向を聞き出す予定でいた。会う予定の4人は全員が世界的に知られる建築家であったものの、ザ・パークハウスとしてのコンセプトや住宅としての住みやすさは、最上位の優先項目だったからだ。
そして2008年、イギリスでひとり、フランスでひとり、アメリカ東海岸でふたりの建築家に会う旅程を組み、榎並たち6人のプロジェクトメンバーが日本を発った。
そのメンバーのひとりである平野一博が、現地での様子をこう語る。「訪れたすべてのオフィスが素晴らしく、圧倒されました。強く印象に残ったのは、ニューヨークで会った建築家、リチャード・マイヤー氏です。白を作品のベースカラーに使うことで知られているマイヤー氏のオフィスは、やはり白で統一されていて、本当に美しかった。それにもまして驚かされたのは、すでに原案のスケッチが用意されていたことです」
マイヤー氏は、“建築界のノーベル賞”と評されるプリツカー賞の受賞者だ。ロサンゼルスの美術館『ゲッティ・センター』をはじめとするマイヤー氏の名建築は、国際的に高い評価を得てきた。しかし、日本の建築物、集合住宅はまだ手掛けたことがなかった。インタビュー前、「マイヤー氏の作風が合いそうだ」という声は出ていたものの、「断られるのではないか」という見方もあったほどだ。
そんな期待と不安が入り交じった状態で出会ったところ、マイヤー氏はすでにビジュアルに訴える資料を作成していたのである。メンバーたちが抱いていた不安は一蹴された。帰国後、6人のメンバーはインタビューを実施した建築家について改めて評価シートを作成。正式にマイヤー氏に依頼することが決定し、電話やファクス、テレビ電話などを用いたほか、何度かニューヨークと東京を行き来してデザインの詳細を詰めていった。
マイヤー氏によるコンセプトスケッチ。
建物は南向きに配置。グリッドによる外構デザインが提案された。
折り紙をモチーフとした、ティアロレジデンスのデザインプロセスを伝える図版。角度を変えたガラス面を色の異なる部分に配置する。
2020年、湾岸エリアはここまで変わる。
湾岸エリアの開発は、東京五輪に向けて拍車がかかっている。晴海5丁目には選手村が計画されており、大会後は約5,600戸の住宅、商業施設、小学校などが整備される予定だ。地域住民のライフスタイルをより豊かなものにする、官民一体となった大規模な街づくりが進められているのである。
なかでも注目されているのは、新たな公共交通インフラ、BRT(バス高速輸送システム)。まず2019年に新橋駅~豊洲駅、新橋駅~勝どきの2ルートを運行。その後、運行ルートを増やし、選手村の再開発後には、新客船ふ頭ターミナルビルや東京駅まで延長することが検討課題に上がっている。『ザ・パークハウス 晴海タワーズ』の道路向かいにもBRTの交通結節機能が整備される予定で、都心部へのアクセスが飛躍的に向上する。車両には燃料電池の導入が検討されており、環境にも住民にもやさしい交通手段となりそうだ。
普遍的なデザインがもたらすもの。
プロジェクトを推進するにあたって出てきたキーワードに、「サスティナブル」というものがある。今後も開発が続けられていく晴海エリアにおいて、『ザ・パークハウス 晴海タワーズ』は、時代や流行に左右されない普遍性、色褪せることのない街の創造を目指すべきだと考えられたのである。
3日分の水や食料などを確保した「各フロアごとの防災倉庫」に加えて、室内の揺れを大きく軽減する最新の免震構造を採用。販売を始める直前に、東日本大震災が起こったこともあって、その先見性とともに未来に向けた街づくりの在り方を示すことになった。東京都内の免震マンションとして初めて、長期優良住宅認定を取得したのも、こうした指針の結果といえるだろう。
マイヤー氏によるデザインもしかり。東側に建つティアロレジデンスは、折り紙をモチーフに、角度と反射率の異なるバルコニー手すりを配置。日の出や日の入りなど光が変化する時間帯には、建物そのものが刻々ときらめきを変化させ、アート作品のような存在感を放つ。西側のクロノレジデンスは織り布がモチーフで、バルコニー手すりの上下に設けられた格子状のスクリーンと、背面のガラス面によって、繊細な奥行き感が与えられている。結果、逆光時や夜間には、透過光によってルーバーが透けるような表情を見せる。
どちらも日本の伝統文化をヒントにしているが、そのデザインはモチーフの延長に留まってはいない。時間や季節によって美しさを変えながら、対話・共鳴し合うグローバルデザインとなっているのである。
2棟の竣工を迎えて、平野は言う。
「再び同じことをしようとしても、難しい部分は多い。ただ、これを機に三菱地所グループからマイヤー氏のもとに学びに向かった人材が出てきました。このプロジェクトは、住まう方々だけでなく、私たち自身にも将来につながる種を蒔いてくれたのです」
榎並が言葉を紡ぐ。
「竣工後、マイヤー氏からは『ありがとう』と言われ、チーフデザイナーからは『このチームでやれてよかった』と言われました。彼らとの仕事を通じて私は、思いを形にするというビジョンをフラッグシップとなる物件で証明できました。ただし、街づくりの観点では、ここからが本当のスタート。今後の街並みの移ろいも楽しみです」
2棟が竣工し、今後は住まう人が主役に。
『ザ・パークハウス 晴海タワーズ』は、2016年3月に竣工したティアロレジデンスと、3年前の2013年に竣工したクロノレジデンスの2棟からなるツインタワーの住宅。リチャード・マイヤー氏によるファサードやランドスケープのデザインに加えて、眺望を楽しめるビューラウンジ、心地よい風を感じられる居住者専用のガーデンやテラスなど、住まう人々の生活をより豊かなものにする多彩な共用施設を備えている。 建ち並んだ2棟は、水辺都市の新たな景観を創造する建築として、すでに存在感を放っている。昼は青空に映える白い外観がエリア全体に美観をもたらし、夜は異なる建物頂部(クラウン)が帰路に着く人々を導く。さらなる発展が期待される街で、今後は住まう人たちが主役となっていくに違いない。
居住者専用のプライベートルーフガーデン。(ティアロレジデンス)
豊かな表情を見せる外観。
美しい夜景を望めるクロノラウンジ。(クロノレジデンス)
建物頂部(クラウン)は異なるデザイン。
居住者専用のプライベートルーフガーデン。(ティアロレジデンス)
ウォーターガーデンが隣接するエントランス。(ティアロレジデンス)
焼きたてのパンやコーヒーを用意したカフェラウンジ。プライベートルーフテラスへとつながる。(クロノレジデンス)
ザ・パークハウス 晴海タワーズ クロノレジデンス(販売済)
所在地/東京都中央区晴海二丁目28番(他3筆)●構造・規模/鉄筋コンクリート造・地上49階地下2階建 ●総戸数/883戸 ●事業主/三菱地所レジデンス(株)・鹿島建設(株) ●設計/(株)三菱地所設計 ●竣工/2013年10月
ザ・パークハウス 晴海タワーズ ティアロレジデンス(販売済)
所在地/東京都中央区晴海二丁目108、109番(地番)●構造・規模/鉄筋コンクリート造・地上49階地下2階建 ●総戸数/861戸 ●事業主/三菱地所レジデンス(株)・鹿島建設(株) ●設計/(株)三菱地所設計 ●竣工/2016年3月