耐震への取り組み…構造設計担当者が見た「阪神淡路大震災」

インサイド・レポート耐震への取り組み…構造設計担当者が見た「阪神淡路大震災」

[インサイド・レポート]

2013年04月30日

震度7 その時、何が起こったのか?

「まさか鉄筋コンクリートのビルがあのようになるとは……。まったく想像だにしなかった光景を目の当たりにして言葉を失いました。」

交通が遮断されたため、平松は早朝に宿泊地の京都を出発。途中からは徒歩を余儀なくされ、数時間かけて神戸の街に入った。
繁華街の面影は微塵もなく、完全に倒壊しているビル、中間層が押し潰されて傾いているビル……その惨状は目を覆うばかりだった。

「日本は地震国ですから、諸外国に比べて建物の耐震構造はかなり進んでいます。我々技術者も学者も、鉄筋コンクリート造の建物が、これほど倒壊することはないと思っていました。それが、あの日神戸に入った瞬間、『安全神話』の崩壊を強く思い知らされました。」
阪神淡路大震災は、断層破壊による地震が大都市を襲った直下型地震である。「キラーパルス」と呼ばれる、周期1秒前後の激しい横揺れが瞬時に建物を破壊した。

鉄筋コンクリート造の建物の被害総数は2,754件、大破したものは610件(日本建築学会調べ)。壊滅的な被害を受けた建物のほとんどは、1981年6月以前のいわゆる「旧耐震基準」で設計されたものであった。

「1968年十勝沖地震、1978年宮城県沖地震などの被害を踏まえて耐震基準は強化され、1981年以降は、いわゆる『新耐震』と呼ばれるものになっています。しかし建物は5年、10年で建て替えるものではありませんから、旧耐震の建物も多数あった。とはいえ、これほど破壊されてしまうとは専門家であっても考えられないことでした。」

交差点角に建つ1階の2面がガラス張りだったビルは完全に崩壊。
「地震の力によって構造的に弱いところがダメージを受けます。耐震壁などのバランスが悪いと建物にネジレが起こって想定外の負荷がかかり、さらに被害を大きくする結果になってしまったのです。」

マンション被害には施工不良を原因とするものも

こうした構造上の問題は、商業ビルだけでなくマンションにおいても甚大な被害をもたらした。
平松の目に付いたのは、エキスパンションジョイントの施工不良が原因だと思われる被害だった。たとえばL字型の建物の多くは、構造体としては2棟の建物でできており、それをひとつの建物として使うために廊下などの接合部に金属製の板が渡して設置されている。これがエキスパンションジョイントとよばれている。揺れの方向や周期が違う躯体を構造的に分離(絶縁)することで、建物にひずみが起きにくくなり地震の被害は少なくて済むのである。

「本来、地震の揺れにあわせてフレキシブルに動くように施工すべきものを、隙間を隠すためにコンクリートで固めてしまったり、ジョイント部分の手すりが分離されていなかったりと、施工不良が原因でエキスパンションジョイントそのものの破壊や、建物にダメージを与えてしまったケースを見受けました。廊下は避難路になるところですから、エキスパンションジョイント部分の施工は非常に重要なのです。」

神戸市内では、鉄骨の避難階段が完全に落下してしまったマンションなど、施工不良に起因すると思われる被害も少なくなかったという。

「幸い当社の物件では、倒壊・崩壊したものはありませんでした。」
エキスパンションジョイントや外階段などの取り付けも、品質管理において厳しくチェックされているので、大きな被害は起こらなかった。
しかし、壁のひび割れや液状化による地盤沈下など、一部の建物で被害はあった。
「地震によるひび割れは、せん断破壊といって×状に亀裂が入るという特徴があります。壁のひび割れは見た目にダメージの大きさを感じさせますが、実は壁にひびが入ることによって地震の力を吸収し、柱などの構造体への影響を軽減している場合もあるのです。」

被害があった物件では、そのひび割れの深さや状況などを技術者が調査検証した後、管理組合によって修理が行われた。

当社のマンションにおける被害と修復

  • 被災時

    被災時

  • 2007年

    2007年

  • 地震特有のせん断破壊によって外壁にひびが入ったマンション。構造体には大きな影響がないことを確認され、ひび割れは修復された。

  • 被災時

    被災時

  • 2007年

    2007年

  • 埋立地に建つマンションでは、液状化による地盤沈下が起こった。建物の構造そのものには被害がないが、沈下によって地面との間に隙間ができてしまったので、階段を付け足して修復された。

  • 被災時

    被災時

  • 2007年

    2007年

  • 地盤沈下によって駐車場の地面にできた亀裂。亀裂の左右では50センチくらいの段差ができたため、段差を埋め戻して補強し、舗装が直された。

  • 被災時

    被災時

  • 2007年

    2007年

  • 地震の揺れに対応して稼動したことで部分破損したエキスパンションジョイント。施工不良の場合は、このような破損ではなく、鉄板部分がめくれ上がったり、手すりが取り付けられているコンクリートが破壊されるという被害をもたらした。

  • 被災時

    被災時

  • 2007年

    2007年

  • 立体駐車場では、車を載せるパレットがはずれて崩落するという被害があった。再びこのような被害が出ないように、パレットの取り付け方法が震災後変更された。

  • 被災時

    被災時

  • 2007年

    2007年

  • このマンションでは共用庭に一箇所地割れが起こった。埋め戻しによる修復が行われた。

事実はどう検証され、生かされたか

大震災直後から、建築技術者を延べ100人以上現地に派遣した。未曾有の震災被害を調査検証するためである。平松自身も3ヶ月間現地に逗留している。

「ディベロッパーとして技術者を現地に送り、3ヶ月も調査をさせたのは当社だけではないでしょうか。それまで予想もしなかったことはもちろん、理論的には分かっていたことも、事実として目の当たりにすること。それを技術者自身が経験することは、設計の安全基準に対する考え方や、社内の技術蓄積に大きく影響することだと思います。」

震災時の調査検証は膨大なレポートとしてまとめられた。そしてそれをもとに、独自のマンション品質管理・性能表示システムである「チェックアイズ」の設計チェックシートにも改訂が加えられた。

平松は言う。
「当社の設計基準は、建築学会の設計指針よりさらに厳しいものです。たしかに柱が太くなると使えるスペースが小さくなります。しかし、たとえ建物の建築計画が制限されたとしても安全性を優先する。それが我々の構造設計思想です。」

どのような大地震があってもまったく損傷しない建物。一見理想のように聞こえるが、一般の建築物の目的からも経済性からも現実的ではない。建物は損傷する。しかし「建物を使う人の安全を確保する」ために、倒壊・崩壊はあってはならず、さらに被害を最小限に食い止めるための努力を怠ることがあってはならない。

「たとえ自社の建物被害が少なくても、技術的な調査検証は、建築技術者を擁する当社にとっては社会的な責務です。調査検証の結果、壁のひび割れを少なくする設計上の工夫や、エキスパンションジョイント部分の施工における品質管理のさらなる厳格化など、当社ではより安全性を高める施策を行ってきました。これを自社だけのものにせず、広く伝えていくことも我々の役割であると思っています。」

平松の言葉にもあるように、自社のマンション建築において、さまざまな地震対策を行っている。壁のひび割れを少なくする対策、エキスパンションジョイントの施工、液状化対策など、地震時の安全性を高める施策とはどのようなものなのか。
次回以降、より詳しい内容に踏み込んで、その実際を分かりやすくお伝えしていこう。

※社名・所属部署・肩書・名称などは取材当時(掲載年月:初出 2007年1月)のものです

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