2017年度下半期、今すぐ買うべき? それとも待つべき? マンション購入の「迷いどころ」を、市況のプロが5つの視点から分析

2017年度下半期、今すぐ買うべき? それとも待つべき?
マンション購入の「迷いどころ」を、市況のプロが5つの視点から分析

[住まい選びの基礎知識]

2017年11月13日

「新築マンションの価格は今、どうなっているの?」「購入しても良いタイミング?」――住み替えを検討する中で、そんな迷いを持っている方も多いかもしれません。そこで、マンション市況に詳しい東京カンテイの市場調査部・上級主任研究員の井出武さんに、「新築マンションは今、買いどきか」について、5つの視点から分析してもらいました。

新築マンション、今は「買いどき」?

首都圏の住み替え検討者の方に実施した新築マンションの「買いどき感」を示すアンケート(図1参照)を見ると、多少の波はありますが、平均すると40%前後で推移しています。この間に、価格は上昇しているにも関わらず、大きく下がってはいません。「消費税率の引き上げ予定」「お金が借りやすい(住宅ローン金利が低い)」「景況感が回復している」などを理由に「買いどき」と判断しているようです。

(株)リクルート住まいカンパニー『住まいの買いどき感』調査(2017年6月度)の中から、次のデータを抽出。首都圏の住み替え検討者のうち、住宅タイプ別で「新築分譲マンションの購入」の割合

(株)リクルート住まいカンパニー『住まいの買いどき感』調査(2017年6月度)の中から、次のデータを抽出。首都圏の住み替え検討者のうち、住宅タイプ別で「新築分譲マンションの購入」の割合

一方、残りの半数以上は「買いどきでない」か「わからない」という立場でしょう。「まだ価格が高いのでは?」「今後、値下がりするのでは?」という疑問を持っているかもしれません。そこで、次に5つの視点から価格相場について徹底分析します。

視点1.「2020年問題」でマンション価格が急落するってホント?

2020年以降にマンション価格が急落するという説が出回っているようです。その理由として挙げられるのは、下記の2点が多いようです。

  1. 1)2020年をピークに東京の人口も減り始め、空き家が増えると予測
  2. 2)建築ブームが東京五輪後に終わって建築費が下落するという見方

まず人口動態についてですが、人口のピークは2025年、住宅需要のベースとなる世帯数のピークは2035年というのが東京都の最新予測(※1)です。さらに井出さんは詳しく解説します。
「首都圏で人口が流出しているエリアはごく一部です。都区部では、特に20~24歳の若者の流入割合が高く、その後もあまり減りません。地方から大学へ入るために都内に移り、卒業後も定着して就職する人が多いからでしょう。若者層は、5~10年後の住宅需要の核になります」

※1東京都「2020年に向けた実行プラン」第4章「Beyond2020 ~東京の未来に向けて~」(2016年12月)

図2は、これから見込まれる首都圏の住宅需要のボリュームを示したものです。買い換え層と新規取得層を含めて307万人に及びます。過去10年における首都圏の新設住宅着工戸数は年平均32万戸ですから、その10年分近い潜在需要があるといえます。

一般社団法人 不動産流通経営協会「首都圏の住宅市場ポテンシャルに関する調査2017年3月」のデータを基に作成

一般社団法人 不動産流通経営協会「首都圏の住宅市場ポテンシャルに関する調査2017年3月」のデータを基に作成

東京五輪後に建築ブームが終わるという見方にも、井出さんは疑問を呈します。
「今、首都圏は再開発だらけといっても過言ではありません。特に都区部では虎ノ門・六本木、田町・品川などを始め、どれも2030年頃まで続く国家プロジェクトです。また外国人観光客の増加ペースは、東京五輪をまたいで続くでしょう。宿泊・商業施設の建設需要も、2020年で終焉するとは思えません」

人口・世帯数、建築ブームの両面から、「2020年問題」には大いに疑問符が付くといえそうです。

視点2.【長期トレンド】長い目で見て、今はバブル? いずれ崩壊する?

昨今「不動産バブル論」がしばしば聞かれますが、本当でしょうか。まず過去40年近い新築マンション価格の動きを見てみましょう(図3参照)。

不動産経済研究所「首都圏マンション市場動向」のデータを基に作成

不動産経済研究所「首都圏マンション市場動向」のデータを基に作成

1990年前後の平成初期のバブルに、東京都区部の新築マンションの価格が8年かけて3倍以上に値上がりし、その後4年でピーク時の半値に下がりました。

2000年代半ばのミニバブル期は、4年で30%上昇して2年で15%の値下がり。上昇から下落までのサイクルと値動きの幅が徐々に小さくなっていることがわかります。首都圏全体の価格推移は、都区部よりさらに緩やかです。

「山高ければ谷深し」といわれますが、今回の上昇はそれほど高くなさそうです。

「急激な乱高下は、バブル崩壊やリーマンショックなどの劇的なできごとの渦に巻き込まれて値下げせざるを得なくなった面があります。今後、内外経済でこうした激変が起きない限りは、大幅な値崩れは起きないのではないでしょうか」(井出さん)

視点3.【中短期トレンド】この1~2年の価格はどう動く?

新築マンションの供給と売れ行き状況から、価格の動きを検討してみましょう。図4は、首都圏全体の新規供給戸数と坪単価の推移です。

不動産経済研究所「首都圏マンション市場動向」のデータを基に作成

不動産経済研究所「首都圏マンション市場動向」のデータを基に作成

1990年代後半から2000年代半ばにかけて8万戸前後の大量供給があった時期は、価格がやや弱含みでした。

その後、新規供給戸数が4万戸前後まで減り、価格が上昇に転じています。需給バランスからいえば、今後、供給が大幅に増えなければ価格も下がりにくいといえそうです。それは次の図5「在庫と契約率」のグラフからも読み取れます。

図5を見ると、契約率が下がるにつれて在庫が大きく膨らんでいることがわかるでしょう。特に、契約率が急落したバブル崩壊やリーマンショックなどの大不況期には、大幅な価格下落につながっています。

不動産経済研究所「首都圏マンション市場動向」のデータを基に作成

不動産経済研究所「首都圏マンション市場動向」のデータを基に作成

最近では、2~3年前から契約率が低下して在庫が増加気味でしたが、2017年以降に契約率の低下に歯止めがかかり、在庫も再び減りました。
「在庫が1万戸を超えると、値下がり圧力が高まる危険水域といわれますが、まだその水準よりも少ない状態です」(井出さん)

大手デベロッパーの寡占化が進んだことも、価格が下がりにくい理由の一つです。図6の通り、2008年のリーマンショックを境に、発売戸数ランク上位のデベロッパーのシェアが大きく高まりました。現在は、トップ20位以内で全国発売戸数の半分以上のシェアを占めています。首都圏に限れば、トップ5以内だけでシェア4割以上です。

不動産経済研究所「全国マンション市場動向」を基に作成

不動産経済研究所「全国マンション市場動向」を基に作成

「経営体力のある大手デベロッパーの比率が高まると、価格の下振れが起きにくくなります。売れ行きが鈍れば、発売戸数を抑えるなど供給調整ができるようになるからです。

昨年あたりから、郊外の一部の物件では契約率の低下に伴って1割強の価格調整が入る例があるのも事実です。しかし、売れる価格帯は見えています。デベロッパーが価格見直しの主導権を握っている限り、ずるずると値下がりする状況は考えにくいでしょう」(井出さん)

視点4.地価や建築費の影響は?

新築マンションの「原材料/原価」は「土地/地価」と「建物/建築費」です。まず地価については、首都圏全体では横ばいに近い状態ですが、東京都では2013年以降は右肩上がりのトレンドです(図7参照)。

土地価格は、東日本レインズ「MarketWatch」の成約物件・土地(100~200㎡)、建築費は建設物価調査会『建築費指数』を基に作成。共に6ヶ月移動平均

土地価格は、東日本レインズ「MarketWatch」の成約物件・土地(100~200㎡)、建築費は建設物価調査会『建築費指数』を基に作成。共に6ヶ月移動平均

建築費については、東日本大震災が起きた2011年以降に大きく上昇し始め、2015年にピークを打った後、大きくは下がっていません。来年以降に発売される新築マンションの価格は、ここ1~2年の地価と建築費に影響を受けます。

「都心部では、地価高騰やマンション適地の不足で用地が仕入れにくい状態です。郊外ではやや調整の中での横ばいといえます。建築コストは、今後も人材不足が簡単に解消できるとは思えませんから、高止まりが続くでしょう。ということは、原価積み上げ式で見た価格が下がる可能性は低いといえます」(井出さん)

視点5.買った後に大きく値下がりする心配はない?

「新築マンションは買ったとたんに2割下がる」といった俗説がありますが、中古マンションになった時の流通市場はそれほど単純ではありません。東京カンテイが公表している「リセールバリュー」を見ると、その実態がわかります。これは「新築分譲時から築10年になるまでの価格維持率」(※2)です。数値が高いほど、資産価値が下がりにくいといえるでしょう。100%を超えると新築時の購入価格より中古で売却する時の価格が値上がりしていることを意味します。

※2「新築分譲時の価格」に対する「築10年時点の中古マンションの価格」の割合

図8-1.マンションのリセールバリュー① 最寄駅からの所要時間別(東京23区)

図8-2.マンションのリセールバリュー② 1棟の最高階別(東京23区)

図8-3.マンションのリセールバリュー③ 戸数規模別(東京23区)

東京カンテイ調査。2005年7月~2008年6月に新規分譲され、2016年7月~2017年6月に中古流通したマンションを対象に新築分譲価格からの価格推移率「リセールバリュー」を算出(図8-1、2、3ともに)

「リセールバリューが高いマンションには3つの法則があります。

第1は“駅近”であることです。第2は“最高階数”の高さ。20階建て以上になると急に上昇します。第3は“開発規模”です。総戸数が200戸を超えると数値が上がり、500戸以上になると極端によくなります。階数と規模はある程度は比例するので、2と3の条件を兼ね備えたタワーマンションは非常に高いといえるでしょう」(井出さん)

また、エリアによってもリセールバリューに差が出ます。やはり東京都心が圧倒的に有利ですが、その他のエリアでも優良なエリアは少なくありません。この3条件に注目して探してみるといいでしょう。

【エピローグ】
以上、5つの視点から新築マンションの「買いどき」について検証してきました。いかがだったでしょうか。実は「買いどき」かどうかを判断するのは、価格動向だけではありません。「買いやすさ」を左右する住宅ローン金利も大いに関係します。図9は金利の影響を示した一例です。

新築マンションの価格は、各年とも東京都区部の上半期平均(不動産経済研究所調べ)。金利は各年9月時点のフラット35の最低水準。返済額は、価格の8割を35年返済で借りた場合の毎月均等返済額。総支払額は、頭金+住宅ローンの総返済額

新築マンションの価格は、各年とも東京都区部の上半期平均(不動産経済研究所調べ)。金利は各年9月時点のフラット35の最低水準。返済額は、価格の8割を35年返済で借りた場合の毎月均等返済額。総支払額は、頭金+住宅ローンの総返済額

仮に販売価格が高くなったとしても、金利が低くなれば、毎月返済額はもちろん、総支払い額が下がることもあるわけです。購入する時期によって、価格と金利の関係は変わってきます。住宅ローンの金利については、次回詳しく解説する予定です。ご期待ください。

井出武さんプロフィール

井出武さん

1964年東京生まれ。1989年マンションの業界団体に入社、以降不動産市場の調査・分析、団体活動に従事、2001年株式会社東京カンテイ入社、現在は市場調査部上席主任研究員。不動産マーケットの調査・研究、講演業務等を行う。

Text:木村元紀

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