「マンション価格が『年収の10倍超』ってホント?」――住宅ライターが豊富なデータで検証
2018年01月19日
「首都圏新築マンションの価格が年収の10.68倍」という記事が、2017年8月31日の日本経済新聞に載りました。東京都では11.46倍です。他の多くのメディアでも取り上げられて話題になったせいか、「もうサラリーマンは東京でマンションを買えない」と落胆した人もいるかもしれません。実際はどうなのでしょうか。マイホームの資金計画に詳しいベテラン住宅ライターが検証します。
「マンション価格が年収10倍超」の実態は?
実は、このニュースの元になったデータは、調査会社の東京カンテイが集計した「マンション価格の年収倍率」です。「2016年に販売された新築マンションの平均価格(70m2換算)を、都民全体の平均年収で割った数値」を意味しています。マンションの価格相場の動きを示す一種の経済指標として見るもので、購入している人たちの実態を表したデータではありません。
では、実際に新築マンションを購入した人の年収倍率はどうなっているのでしょうか。
出典:『フラット35利用者調査』。年収倍率=購入価額÷世帯年収。金利は、フラット35の最低金利(返済期間21年以上35年以下、頭金9割以上)の各年末の水準
図1は、長期固定金利の住宅ローンとして知られる「フラット35」を利用した人のデータです。この利用者ベースで見たマンション価格の年収倍率は、2016年の首都圏平均で7.2倍となっています。2000年代前半の6倍前後に比べると、やや上昇傾向です。10倍ほどではないにしても「やはり自分の購入能力を超えているのでは?」と懸念するかもしれませんね。
しかし、購入能力は、価格と年収だけでは測れません。住宅ローンの金利も関係します。同じ図1に示したフラット35の金利の動きに注目してください。年収倍率と反比例するように下がっていることがわかります。
次に、住宅ローンの返済額の推移を見てみましょう。住宅ローン返済額は価格と金利から算出できます。図2を見ると、価格が徐々に上がっているものの、毎月返済額(※)は12万円から13万円前後の範囲で動いており、上昇傾向にはありません。金利低下の恩恵を受けているからです。つまり「購入能力を超えるほど価格が上がっているわけではない」といえるのではないでしょうか。
- ※ボーナス払いなしの毎月均等の金額
出典:『フラット35利用者調査』
その一方で、インターネットなどで資金計画の基本情報を調べると、「無理のない購入価格は年収の5倍以内」といった解説をよく見かけます。現在の「7倍」という水準に無理があるのでしょうか?
購入価格は「年収5倍以内が安全」説の真相
そもそも、なぜ「年収の5倍以内」が安全なのでしょうか。いろいろな解説を見ても、「以前から、そう言われている」というだけで、ほとんど明確な根拠は示されていません。そこで、いつ頃から「5倍」と言われていたのか、時間を遡ってみると……。
ありました、なんと四半世紀前に。1992年当時の宮澤内閣が政策として打ち出した「生活大国5か年計画」の柱の一つに、「勤労者世帯の平均年収の5 倍程度を目安に良質な住宅の取得が可能となることを目指す」という項目が盛り込まれていました。旧・建設省(現・国土交通省)では、これを“アフォーダブル(取得可能な)住宅”と位置付けて、それ以前から提言していたようです。
この「5倍」という数字は、政策が作られた時点の金利水準で試算した購入可能額と考えられます。1990年頃の住宅ローンの金利は、旧・住宅金融公庫の融資(現在のフラット35の前身)で5.55%です。現在からみるとかなりの高金利ですが、当時としては、8%以上が一般的だった民間ローンよりも抑えられた“低金利”でした。平均年収は東京都で約600万円と、現在とあまり変わりません。この条件で試算してみましょう(図3参照)。
結果は、住宅ローンの借入可能額が2,850万円となりました。頭金を購入価格の2割入れる場合、購入できるマンション価格は3,560万円です。年収倍率では約6倍となります。頭金が1割なら同じく5倍台です。つまり、5%以上の金利で計算した購入可能な年収倍率が「5~6倍」になるということです。
当時の新築マンションの平均価格は首都圏平均で6,000万円を超えていました。年収の10倍以上です。「サラリーマンに手の届く年収5~6倍の住宅」を購入しようとすると、通勤に1.5~2時間以上、都心から60km圏の遠隔地になってしまいました。東京の通勤圏で「年収5倍の3,000万円程度に住宅価格を下げる」という政策目標は、当時としても、かなり無理があったといえるかもしれません。
このような時代的背景から生まれた「年収5倍以内」というセオリーを、そのまま現在も使い続ける意味があるのでしょうか。
「年収8~9倍」でも無理なく購入できる?
そこで、現在の状況に合わせた「年収倍率」を試算してみましょう。以前との状況変化をまず整理します。
○1990年当時:高金利。住宅ローンの資金計画は、公庫を始めとする公的融資を中心に組み立て、民間ローンは公的融資で賄えない分を補てんするもの、という考え方が主流。担保の掛け目が8割で、購入価格の2割以上の頭金が必須でした。
○現在:低金利。公庫がなくなり、1990年代終わりの金融ビッグバン以降は民間の住宅ローンが主流になりました。頭金1割でも購入可能になっています(安全な資金計画には「頭金は2割以上」が好ましいという見方も根強いため、ここでは頭金2割で計算)。
現在の諸条件を基に試算したのが図4(※)です。年収は90年代と変わりません。結果は、借入可能額が4,380万円となり、90年当時より1,500万円以上も増えています。頭金を2割入れた場合の購入可能額は約5,500万円、年収倍率では9倍以上です。この金額は、首都圏で販売されている現在の新築マンション価格とほぼ同じ水準といえます。
しかも、毎月返済額は11.6万円で、90年の17.5万円より6万円近くも減っています。同じ年収で、借入金額が増えているにもかかわらず、返済負担は大幅に軽くなっているわけです。言うまでもなく、超低金利の恩恵でしょう。
頭金を1割で計算すると購入可能額は年収の8倍程度になります。つまり、現状では年収の「8~9倍」まで購入可能というわけです。
また、最近の金融機関では、融資の上限金額を「年収の7倍程度」に設定しているところが多いといわれています。図4で試算した借入可能額の7.3倍と、だいたい一致しています。この点から考えると、購入可能額は「借入可能額〔年収の7倍〕+頭金」を目安にするといいのではないでしょうか。図1のフラット35のデータでは、実際の購入価格が年収の6~7倍でした。フラット35の利用者の場合は、購入可能な最高価格よりも抑えた、より安全なレベルで購入している人が多いといえるかもしれません。
- ※図4には「審査金利」という用語が出ています。これは、民間の金融機関が融資額の上限を計算する際に使われる金利です。審査金利は金融機関によって異なりますが、「10年固定」の店頭金利を基準にするケースが多いようです。融資実行時の適用金利とは異なります。2017年11月現在では、概ね3%台前半です。つまり、金融機関は、金利が3%以上になったとしても「無理なく返済できる」と判断した金額を融資しているといえるでしょう。図中の「返済比率」については、次項で解説します。
住宅ローンの「返済比率25%以下」は安全とは限らない?
資金計画の良し悪しをチェックする指標としては、住宅ローンの「返済比率」(年間返済額÷額面年収※)もよく取り上げられます。現在、民間の金融機関では、審査上の返済比率を「額面年収の35~40%」に設定しています。つまり、そこまで貸してくれるということです。しかし、FPなどの専門家に聞くと「25%以下が安全」とアドバイスされるケースが多いかもしれません。つまり、額面年収の4分の1以内なら、返済に無理がないということです。
- ※社会保険料や所得税などを支払う前の年収
実際のところ、購入している人の返済比率はどうなっているのでしょうか。フラット35の利用者データを基にした図5をご覧ください。
(住宅金融支援機構『フラット35利用者調査』を基に作成)
時期によって多少の波はあるものの、全国平均で21%前後、首都圏では22%前後の水準といっていいでしょう。三大都市圏以外では20%以下の低い水準が続いています。全般的に、専門家のいう「25%以下」の理想的な水準に収まっています。前出・図4で示した銀行ローンを借りた場合の返済比率も23.3%でした。これらのデータを見る限り、現在のマンション購入者の資金計画に問題があるようには思えません。
ただ、最近では「額面年収の25%以下」では厳しいという見方も出ています。社会保険料や税金を引いた手取りベースで計算すると30%を超えてしまうからです。社会保険料率は年々高まっています。額面年収に占める返済比率が同じでも、手取りベースでは負担感が増しているかもしれません。そこで、返済が苦しくなっているかどうかについて、別のデータで検証してみましょう。
住宅ローン破たんは増えていない
もしも住宅ローンの返済負担が重くなり、家計を圧迫する状況が一般化しているなら、延滞したり返済不能になって破たんしたりする割合が増えているはずです。その実態を見てみましょう。
(住宅金融支援機構『フラット35利用者調査』を基に作成)
図6は、フラット35の延滞と破たんの比率の推移を示したものです。延滞や破たんの比率は、増えるどころか減っていることが明らかです。つまり、マンション購入者の返済状況が悪化しているとはいえません。
また、民間の金融機関の破たん比率は一部しか公開されていませんが、フラット35のデータよりも低めになるといわれています。たとえば、あるネットバンクでは、破たんの比率が0.005%です。フラット35の0.3%より2桁も低くなっています。破たん・延滞・貸出条件緩和の各債権を合計しても0.15%です(2017年第2四半期決算発表資料)。民間の金融機関の融資についても、返済状況はそれほど悪くないと考えていいでしょう。
そういう意味では、住宅ローンの返済比率が20~25%の範囲に収まっている現状は、安全な資金計画といえるのではないでしょうか。
収入がアップすれば、返済負担は軽くなる
ところで、住宅ローンの返済比率は、最初に借り入れた時点だけに用いる指標ではありません。返済開始後の変化を見る上でも有効です。
金利が上がって返済額が増えると、返済比率も増加します。逆に収入が増えれば、返済比率は低下します。会社でキャリアを積み、役職が上がって年収がアップしていけば、ローンの返済負担は相対的に軽くなっていくわけです。
たとえば、30~35歳で年収600万円の時に購入し、住宅ローンの年間返済額が150万円だったら、返済比率は25%です。10年たって40~45歳になり、年収が750万円に増えたとしましょう。その時に年間返済額が変わっていなければ、返済比率は20%に下がります。子どもの教育費や老後資金の準備をする余裕も出て来るのではないでしょうか。
もちろん、収入状況や金利の動き次第では、これと逆パターンの現象も起り得ます。ただ「マイホームを持つと生活に張りが出て仕事の意欲も増し、収入アップにつながる」という声もよく耳にします。客観的なデータではありませんが、返済能力と本人の意欲には密接な関係があるという見方があることも、覚えておきましょう。
家計の実態に合わせて、自分の安全圏を見つけよう
最後に、家計と資金計画との関係について触れておきましょう。資金計画の鉄則は「借入可能額より返済可能額で考える」といわれます。つまり、「貸してくれる金額」より「返せる金額」が重要ということです。
借入可能額は、これまで解説してきた年収倍率や返済比率などの指標を基に計算できます。しかし、返済可能額は、年収だけでは割り出せません。家族構成、ライフスタイル、将来の人生設計などによって異なるからです。
たとえば「生活を切り詰めてでもマイホーム第一主義に撤する」のか、「生活を楽しむ余裕を持ちながら、子どもの教育費にもお金をかけたい」のか。年収は同じでも、住まいや暮らしに対する価値観によって「いくら返せるか」が左右されるのです。正解は一つではありません。
たとえば、図7は、年収700万円程度、月々の手取り額が35万円の場合の家計費の内訳の一例を示したものです。住居費の8万7500円は、手取り額のちょうど25%に当たります。税込みの額面年収に対する返済比率に換算すると20%くらいです。これよりも住宅ローンの返済比率を上げるなら、家計費のうちどれかを節約する必要があります。
このような家計費の内訳表を作成して、「何を優先するか」「何を削れるか」を家族で話し合ってみましょう。また専門家へも相談しながら、家計の実態に合わせた安全な資金計画を練ってみてください。
TEXT:木村元紀
<プロフィール>住宅ライター。1963年東京生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業。30年以上に渡り、不動産・住宅関係を中心に取材・執筆。主な著書に『住宅購入の危機管理』(共著)、『いま買うしかない!マンション・戸建て購入術』、編著に『住宅ローンを借りる前に読む本 ~地獄へ落ちないための23の知恵~』(山崎隆著。ファーストプレス)などがある。
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