国際文化会館

町中にいるのを忘れそうな静寂の庭園である右手の建物は国際文化会館のレストランだ

庭園にあった石塔と石灯篭

兄の結婚披露宴が国際文化会館で行われたのは半世紀も昔のことで記憶も相当に薄れているが、司会が永六輔さんで、井上ひさしさんや大島渚さんや、ともかく有名な方々が多数みえて盛大だったのを覚えている。ぼくはウェディングケーキの係を仰せつかり、そのケーキが暑さのために傾き始めたのでケーキ屋さんと一緒にそれを懸命に防いだのをいま思い出した。

折りしもプロ野球日本シリーズの最中で試合経過を永さんが、ぼくは野球などどうでもいいんだけどと言いながら時々報らせてくれた。だから月頃のはずなのに、この日は真夏のような気温だった。

会場は、いま「岩崎小彌太記念ホール」となっている所のように思う。それは会場から見えていた庭園の様子でそう思ったのだが、そうは言ってもその日は庭園をしみじみ眺める余裕などなく、ドタバタしているうちにお開きとなった。

その結婚披露宴の会場が昔は大名屋敷で、のちに岩崎家の所有となって昭和の名建築といわれた和式邸宅が建ち、庭園は”植治”こと7代小川治兵衞の作であったことをだいぶ後で知った。さらにその庭園はほとんどそのままいまに残されていると聞いて、あの庭がそうだったのかと遠い記憶の彼方を思い遣った。

その庭園は池泉回遊式といわれるが、このたび実際に回遊してみると山あり谷あり滝ありで、まるで小さなハイキングコース。しかも喧騒の中なのにここだけは静寂の世界で、それを不思議に感じた。
(小林)

麻布十番駅から徒歩5分ほどに位置する国際文化会館。この地に岩崎小彌太(三菱第4代社長)が岩崎家鳥居坂本邸を建設したのは昭和4年のこと。現在港区指定文化財に登録されている庭園は、第二次世界大戦時の空襲により岩崎邸が焼失したあともほぼ変わらぬ姿を残していた。

戦後、この美しき日本庭園のある3000坪もの広大な敷地は、ジョン・D・ロックフェラー三世の提唱により進められた日米文化人の交流の場となる「インターナショナルハウス」の建設地となり、1952年国際文化会館が誕生。その建物は日本建築界の巨匠である前川國男、坂倉準三、吉村順三によって設計され「登録有形文化財」にも登録されている。

幕末までは大名屋敷があり、明治初期には、明治天皇をお迎えした歌舞伎の天覧が催されるなど、この地で刻まれてきた歴史は奥が深い。都会の喧騒を忘れさせてくれる静寂さのなかに、どことなく厳かな雰囲気が漂っているのは、由緒ある地ならではのもの。ティーラウンジやレストランから庭園の景色を楽しみながら、その空気感をぜひ感じてほしい。
(協力=国際文化会館、三菱史料館)

公益財団法人 国際文化会館

●住所/東京都港区六本木5-11-16
●アクセス/都営大江戸線「麻布十番」駅7番出口徒歩5分、東京メトロ南北線「麻布十番」駅4番出口徒歩8分、東京メトロ日比谷線「六本木」駅3番出口徒歩10分

こばやし・やすひこ/イラストレーションを中心に小説の挿絵、本の装丁、絵と文によるレポートも手掛け、国内外にもよく出かけることから旅の名人としても知られる。著書には『ヘビーデューティーの本』(山と渓谷社)などがある。