手のひらの上に、
京の季節をひとつ
作業台に並ぶ、色とりどりの生地。豊国神社の前、三十三間堂にもほど近い
京菓子の老舗・甘春堂 東店で、和菓子づくりを体験しました。
指先だけで季節をかたどっていく時間は、驚きと発見の連続でした。
まずは干菓子から。
手仕事のはじまり
手を洗って席につくと、職人さんが季節の話を添えながら迎えてくれました。教えてくれるのは、和菓子ひとすじ48年のベテランです。
最初に作るのは干菓子の中でも寒梅粉と砂糖と蜜を合わせて練り、型抜きをして乾燥させて作る「生砂糖」。「生砂糖」は元々宮中などの献上菓子として、江戸時代に京都で誕生した和菓子です。
先生役の職人さんの教え通り、麺棒で生地を伸ばして型で抜くと、愛らしい蔦の葉が現れました。シンプルな工程ながら、葉の重なりまで美しく決まるのは型と生地の妙。
まずは小さな成功に心がほぐれ、次への期待がふくらみます。
薄く広げた生地から、
透ける自然の色
続いて上生菓子へ。
意匠は季節ごとに変わり、7月のこの日は枇杷と朝顔をかたどります。ういろうの「枇杷」は、黄色い生地を手のひらいっぱいに広げ、中央をへこませて緑の生地を置き、押しつぶすように薄くのばしていきます。
そっと裏返すと、緑がうっすらと透けて、やわらかな枇杷の色合いが生まれていました。塗るのではなく、透けさせて色を表す——その技ができた瞬間のうれしさは、この日いちばんでした。
難しかったのは、あんを包む工程。力を入れると生地が伸びてしまうため、職人さんの手元を何度も見ながら加減を探ります。
練り切りの「露の宿」は、朝顔がモチーフです。
今度は白を透けさせて淡い色を出し、三角棒で花びらの筋を描きます。はじめは力が強すぎて線がくっきり残り、「もっと力を抜いて」と教わって、ようやく淡い朝顔の表情になりました。
仕上げに、朝露に見立てた透明の寒天をひと粒。菓銘のとおりの涼やかさです。見た目の似たういろうと練り切りも、触れると生地のやわらかさや手ざわりが異なり、それぞれの個性が興味深く感じられました。
ふわりとこして、彩りを重ねる
最後は、きんとんの「露草」。
きんとん用の餡を「藤(とう)」という木製のざるで裏ごしします。手のひらで押して通していくときの、なんとも不思議な感触。
そっと藤を持ち上げると、緑の細い糸がふわりと立ち上がり、ふわふわのきんとんが出来上がっていました。
これを、あんの玉に箸で少しずつ、潰れないようやさしくまとわせていきます。
仕上げ最後に、細かい目の藤で裏ごしした紫を3か所そえると、緑一色だった露草がぱっと華やぎました。差し色まで計算された意匠に、和菓子ならではの美しさを感じます。
一服の抹茶とともに、
味わう京時間
出来上がった菓子を前に、職人さんが抹茶を点ててくれました。
点てたばかりの抹茶はふわりと香り、口に含むとすっきりとした味わい。自分で作ったきんとんとともにいただく、贅沢なひとときです。
体験のあとには、先生役の職人さんが目の前で上生菓子を作ってみせてくれました。
私たちが挑戦したものよりずっと凝った意匠が、わずか2、3分、よどみない手さばきで形になっていきます。その鮮やかさに、48年の年月を感じました。そんな職人さんに、和菓子への想いを伺いました。
大切にしているのは、器と和菓子を合わせて季節を感じてもらうこと。そして、見た目の美しさはもちろん、食べて本当においしいこと。
餡は素材を吟味し、余計なものを加えないと話します。餡に使われるのは、丹波大納言小豆をはじめとする選りすぐりの素材。お客様の声にも耳を傾けながら、受け継ぐべきものは受け継ぎつつ、新しいものも柔軟に取り入れる。
新しい意匠に挑むときは、自分で木を削って道具を作ることもあるそうです。「この手仕事を、次の世代にも伝えていきたい」。その言葉に、京菓子職人の矜持がにじんでいました。
指先で季節をかたどり、香りと味わいまで楽しむ。そんな時間が、京都の暮らしのすぐそばにある。作りたての和菓子の余韻とともに、心に残るひとときでした。
甘春堂 東店
かんしゅんどう ひがしてん
- 所在地
- / 京都市東山区大和大路通正面下る
茶屋町511-1 - 交 通
- / 京阪本線清水五条駅より徒歩8分
最新の体験情報・予約状況は必ず施設へお問い合わせください。








