2025年度グッドデザイン賞受賞流通改革による日本の森林を守る取り組み
2025年10月15日
森林を守るためには「伐る・使う・植える・育てる」という循環が重要です。しかし日本の林業は、森を適正に管理する充分な資金がありません。そこでマンション事業者が林業者から木材を直接購入する、これまでにない新しい連携を実現しました。「植林や育林などに必要な費用」が林業者に直接届くことで、森林循環を促し、さらに、林業関係者が独自で販路を確保して自立することで、地域発展も望める取り組みです。
国内林業の深刻な現状
日本は国土の約7割を森林が占め、戦後大量に植林された木が伐採適齢期を迎えています。私たちは国産材を使うことが健やかな森林存続のために必須だと考えていますが、それだけでは森を守れないことが分かりました。なぜなら、「伐採された国産材の約6割は再造林されず森が荒廃してしまう」からです。理由は資金不足によるもので、長年大切に育てて収穫した丸太が、海外産木材との価格競争によって1本3,000~5,000円程度で売るしかなく、未来に投資するための利益が出ない。つまり、これまでの“当たり前”を続けている限り放置林や荒廃する山が増え続け、森林火災や山崩れが増加する可能性があるのです。
モノづくりへの想いとして一時的な活動で終わらせるのではなく、林業関係者に根源的に向き合う必要があると感じ、森の管理に必要な費用込みで直接購入する流通改革を行いました。
また、企業が社会的責任を果たすことは必要不可欠となり、私たちが推進する木材活用もCO₂削減がきっかけになっています。
日本の森を守るための流通改革
流通の構造を根本的に考え直すにあたり、まずは伐採後の植林と成長するまでの維持管理に必要なコストを明確に定義しました。これを直接届けるために真摯に再造林を行っている林業者とコミュニケーションを図り、木材を指定して購入する流通改革の取り組みをはじめました。また、林業者と加工業者が連携し、モノづくりチームを結成。提供可能な製品を整理し、販売の主体として自立する体制も整えました。これにより、さまざまな地域で展開することができ、国産材活用の新たなロールモデルとなることを目指しています。
すでに7箇所の地域と連携し、活動が始まっています。
森の適正管理をおこなっている林業地を開拓するために、各地域に出向いて林業関係者とコミュニケーションを図り、有効な木材活用を模索しています。
流通経路を変革した取り組みの第一弾として、埼玉県飯能市の林業関係者と分譲マンション「ザ・パークハウス 横浜川和町フロント」の木質化を実現しました。
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- 販売済みでご確認いただけない場合もございます。
ザ・パークハウス 横浜川和町フロント。埼玉県飯能市の林業関係者の木材を指定し活用している。
埼玉県飯能市にはじまり、秋田県大館市や神奈川県相模原市、南三陸町、みなかみ町等の林業関係者とも連携。日本全国でこういった取り組みが進むことで、日本の林業を守ることに繋がると考えています。
林業者との連携の経緯
林業者も再造林の必要性を認識していますが、従来のやり方を改革する概念はなく、未来の見えないルーティンを続けていました。本取組みは地域ごとにチームを結成する労力やコストの増加はありますが、「森林を守る」というゴールから逆算すると「林業者に再造林のための費用を直接届ける」ことが絶対に必要だと信じ、意志を曲げずに実現してきました。
飯能の事例
木の守PROJECT
三菱地所レジデンスでは、2016 年に分譲マンションでは初の二重床下地合板におけるFSC 部分プロジェクト認証を取得する等、木材のトレーサビリティの向上に寄与する国産材及びFSC 認証材を積極的に採用してきました。
それらを背景とし、地球環境を守り、未来につながる木材利用の推進を目指す「木の守PROJECT」を始動させました。
流通改革による日本の森林を守る取り組みも、「木の守PROJECT」の一環です。
「木の守PROJECT」の活動を通じ、合法木材や国産材の活用、リサイクル、新築分譲マンションに使われる型枠木材のトレーサビリティの向上により、「居心地の良い空間」づくりを行うと共に、地域と連携することで、林業の社会課題の解決に貢献する活動を継続的に行ってまいります。
「三菱地所レジデンス サステナビリティの取り組み」について、以下サイトよりご覧ください。
審査委員の評価コメント
マンション事業者が林業者と直接取引を行い、植林や育林に必要な費用を確実に届ける仕組みを構築した点は画期的である。従来割高な素材と見なされていた木材が、再造林費用を含んだ適正価格として認識されるようになったことも大きな成果である。さらに、大企業ならではのスケールを活かし、全国へと展開している点も意義深い。単なるCSRや一過性の活動ではなく、CO₂削減と森林循環を両立させる持続的な仕組みとして位置づけられており、その強い意志が伝わってくる。日本の森林資源を守る上で継続が望まれる活動だ。