2019年度後半、新築マンション市場はどうなる?~市況のプロが解説

2019年度後半、新築マンション市場はどうなる?~市況のプロが解説

[住まい選びの基礎知識]

2019年09月24日

秋は住み替えシーズンのひとつといわれます。マンションの購入を検討している方にとっては、2019年後半の新築マンションの市況がどうなるのか気になるところでしょう。そこで、5年ぶりに消費税率が引き上げられた後の価格動向や、今後の注目エリアについて、マンション市場の専門家、東京カンテイの井出武さんに解説していただきます。

新築マンションの価格は、上昇傾向から横ばいに近い状態に

初めに、2019年前半までの価格動向について振り返っておきましょう。図1は、首都圏で販売された新築マンションの1坪(約3.3m2)当たりの単価について、四半期ごとの推移を示したものです。

図1.新築マンションの坪単価推移(30㎡未満[ワンルームタイプ]住戸を除く)

出典:東京カンテイのデータを基に作成

全体的に2018年まではゆるやかに上昇していましたが、2019年に入ってからやや下がり気味になっている様子がわかります。

「価格の天井が見え、横ばいや一部で下降するエリアが出てきたといえるでしょう。反転して下落傾向になったとまではいえません。グラフが右肩下がりになっている理由としては、4~5億円を超えるような超高額物件の販売が鳴りを潜めたことや、首都圏でも相対的に価格の低めな23区内北東エリアの販売が増えたことなどにより、平均単価が押し下げられたことが考えられます。ただ、少なくとも昨年までのような上昇トレンドから、落ち着いた相場に移行しつつあることは確かでしょう」(井出さん)

消費税率引き上げ後も、価格が変動しにくい理由

次に今後の価格動向はどうなるかについて考えてみましょう。次の3つの視点から、価格が変動しにくい理由が見えてきます。

(1)増税前の駆け込み需要がなかったため、増税後の反動減も考えにくい

まず、みなさんの関心が高い消費税率引き上げとの関係です。マスコミなどでは「消費増税後の需要の反動減で価格が暴落する」という説も流れていますが、実際はどうなのでしょうか。

図2をご覧ください。これは、消費増税の前後に新築マンションの契約戸数がどう変動したかを示したグラフです。2014年4月に5%から8%に上がった前回と、2019年10月に10%となる今回とを比較しています。消費税率引き上げの6ヵ月前に設定された「経過措置」に注目してください。これは、未完成物件の場合、経過措置の期限までに売買契約をすれば、竣工・引き渡しが税率引き上げ後になっても、従前の税率が適用される特別措置です。

図2.新築マンション契約戸数の対前年変動率

出典:不動産経済研究所のデータを基に作成

前回の増税時(2014年4月)は、経過措置期限(2013年9月)の直前に契約戸数が前年比100%を超えるプラス、つまり2倍以上も増加しました。そして増税の3ヵ月前くらいまでは前年比プラスが続きましたが、同2ヵ月前から急減。増税後は契約戸数の減少が続きました。まさに「駆け込み需要→反動減」の現象が起きたわけです。

しかし、今回は経過措置の前の駆け込み需要がまったく起きていません。むしろ契約戸数は前年比マイナスです。そのため反動減による大幅な値下がりは考えにくいのではないでしょうか。

「駆け込み需要がなかった要因は、3つ考えられます。1つは、前回増税時のように大幅な需要の変動が起きないように官民が連携して動いたこと。2つ目は、消費増税後に不利にならないように、国が住宅ローン控除などの税制特例措置を拡充し、消費者に広く周知したこと。最後に、価格が高水準に止まっているため、購入を前倒しする動きが鈍かったことなどです。いずれにしても、消費増税の市況への影響は軽微だと思われます」(井出さん)

(2)初月契約率が低くなっても、価格変動の要因になりにくい

東京カンテイ 井出武さん

2つ目の視点は、新築マンションの初月契約率と不動産価格の関係です。初月契約率というのは、新規に販売開始した月の発売戸数に対する契約戸数の割合を表した指標で、売れ行きのバロメーターとしてマスコミでも盛んに取り上げられています。「70%が好不調の分かれ目」とされ、初月契約率が70%を下回ると売れ行き不調となり、価格引き下げのきっかけになるという指摘もありました。

図3は過去10年の初月契約率を示したものです。初月契約率(青い線)は2016年以降、60%台に止まっています。従来の考え方では「売れ行き不調」で、相場が下がってもおかしくないという判断になるでしょう。しかし実際には、価格は下がっていません。

契約率にはもう一つ「累積契約率」(オレンジの線)という指標もあります。これは、発売を開始した月以降も継続して販売している物件、過去の在庫物件も含めて、その年に発売された総戸数に対する契約戸数の割合を示したものです。こちらは70%台後半を維持しています。短期的な市場の変化に左右されずに、個々のライフステージにおいて、購入のタイミングを判断する人々の底堅い需要が下支えしているといえるでしょう。

図3.新築マンション契約率の推移(首都圏)

出典:不動産経済研究所のデータを基に作成

「実は、売主である不動産会社の間で、初月契約率はあまり重視されなくなる傾向があります。その理由は、販売手法が変わってきたからです。以前は、営業スタッフが常駐するモデルルームを公開して、短期間に大勢のお客さんを集めてスピーディに完売することを目指していました。モデルルームの維持コストや営業経費がかさむからです。

しかし、現在はインターネットで希望者を募り、ある程度まとまったら案内するというように売り方が合理化されてきたため、多少販売期間が長くなっても構わないというスタイルに変わってきました。1棟のマンションを何回に分けて販売するかを調べたところ、20年前は2回以下、現在は6~7回です。販売期間が長期化していることは間違いありません。初月契約率が低くても、一定期間内に売れれば問題ないという判断になっているのでしょう」(井出さん)

(3)超低金利と優遇税制で、買いやすい環境に変化なし

3番目の視点は、価格以外の購入環境です。図4は、長期固定型のフラット35のもっとも低い金利の推移を示したものです。直近の2019年8月現在では0.89%(※1)となり、過去最低記録を更新しています。

※1:
新機構団信の0.28%を除いた金利。2017年9月以前は任意加入の旧機構団信が金利に含まれていなかったため、データの連続性を持たせるため、2017年10月以降の金利を過去の団信抜きの表示方式に統一した。

図4.フラット35の金利推移(返済期間21年以上35年以下、融資率9割以下の最低金利)

出典:住宅金融支援機構【フラット35】のデータを基に作成。団体信用生命保険料なしの金利に統一

省エネルギー性、耐震性など質の高い住宅を取得する場合には「フラット35S」を利用でき、当初5年間または10年間の金利が0.25%引き下げられます(※2)。団体信用生命保険料を含めても金利は1%以下です(※3)。

それに加えて、年末借入金残高の1%の所得税が軽減される住宅ローン控除(※4)を活用すれば、一定期間、実質的な金利負担がないともいえます。

「これだけの超低金利、優遇税制などの負担軽減の効果を考えれば、買いやすい環境に変わりはありません」(井出さん)

以上の3点を総合的に考えると、大幅な金利上昇や景気後退などの経済環境の激変でもない限り、価格が大きく変動しにくいといえます。値上りをおそれてあわてて買い急ぐことも、大きく値下がりするのを待つ必要もありません。自分の希望条件に合った物件をじっくり選ぶことができる時期といえるでしょう。

※2:
「フラット35S」には予算金額があり、各年度の予算金額に達する見込みとなった場合は、受付終了となる。
※3:
融資率が購入価格の9割以下の場合の借入金利
※4:
住宅の床面積や借入者の年収などが一定の条件に合う場合、住宅ローンの年末残高の1%に相当する所得税などが最長10年間控除される(消費税率10%適用の場合は一部控除率が変更され、最長13年になる予定)。(2019年4月1日時点の法令等による)

5年後、10年後を見据えて選びたい注目エリア

少なくともマイホームは、短期的に利益を追求する投資と違い、5年、10年以上は住み続けることを想定して購入するでしょう。仮に多少の価格変動が一時的にあったとしても、目先の動きを気にするより、中長期的に資産価値が維持されているかどうかが大切です。

「資産を持つという点から有望なエリアとしては、再開発がキーワードの一つになります。ポテンシャルの高さからいえば都心部が間違いありません。ただ、一般論として、再開発エリアには賑わいが生まれ、人口が増え、不動産の賃料が高まり、資産価値も保たれるという好循環が生まれます。都心部への通勤圏では、こうした期待の持てるエリアは見つかるでしょう」(井出さん)。

有望と思われるエリアをいくつか紹介しましょう。たとえば、神奈川方面では、小田急線「新宿」駅まで直通で50分前後の「本厚木」で、駅南口の大規模再開発が進んでいます。鉄道アクセスだけでなく、東名高速や圏央道のIC(インターチェンジ)も近いため、自動車の利便性も高いエリアです。物流施設も増え、雇用が生みだされるなど将来性も期待されています。

千葉方面では、JR京葉線「海浜幕張」駅を最寄りとする幕張新都心の一画、「若葉住宅地」で、職住学遊が一体になった首都圏最大級プロジェクトが進行中。ドローン宅配、ロボットシャトルによる無人運転などの実証実験が行われ、ユニークな街づくりが行われるようです。

不動産市況を踏まえつつ、長く住み続けたいと思える魅力のある街を探してみてはいかがでしょうか。

井出武さんプロフィール

東京カンテイ 井出武さん

1964年東京生まれ。1989年マンションの業界団体に入社、以降不動産市場の調査・分析、団体活動に従事、2001年株式会社東京カンテイ入社、現在は市場調査部上席主任研究員。不動産マーケットの調査・研究、講演業務等を行う。

TEXT: 木村元紀
PHOTO: 村山雄一

おすすめの物件

住まい選びの基礎知識 新着記事

一覧

閉じる
SNS gallery
お気に入りに追加されました

お気に入り一覧へ

まとめて資料請求できるのは5件までです

OK

お気に入りに登録にするには
会員登録が必要です

会員登録するとマイページ内でお気に入り物件を確認することができます。

会員登録