住まいの選び方が変わる!? 加速する“職住融合”トレンド

住まいの選び方が変わる!? 加速する"職住融合"トレンド

[住まい選びの基礎知識]

新型コロナウィルス感染拡大をきっかけに、「テレワーク」という言葉も定着し、在宅勤務を始めた人も増えています。こうした動きは、住まいの間取りプランやエリアの選択に影響を与えそうです。そこで、テレワークの第一人者である堤香苗さんへの取材、関連する調査データなどを踏まえて、新たなマンション選びのトレンドを考えます。

“都心回帰/通勤重視”から“職住融合/住環境重視”へ、
住まい選びの軸足が移る!?

企業のテレワーク導入率が急増していますが、在宅ワーク(※)に詳しい堤さんは、現状についてこう指摘します。
※ここでは、企業に雇用されている社員の在宅勤務にフリーランスを含めた広い意味での自宅での仕事を「在宅ワーク」と呼びます。

「もともと、都心のオフィスに通勤する働き方と子育てや介護との両立が難しくなったり、時短勤務ができてもキャリアアップに限界を感じていた女性の課題に応えるために、会社を起ち上げました。
自宅や住んでいる地域で働くテレワークを積極的に選んだ結果、家族のケアと仕事を自分のペースでシームレスにできるというメリットを実感しています。
でも今の状況は、新型コロナの感染防止のために、十分な準備もなく在宅ワークを強制された面があるせいか、評価がわかれていますね」

“都心回帰/通勤重視”から“職住融合/住環境重視”へ、住まい選びの軸足が移る!?

各種調査でも「通勤時間や移動時間が短縮した」「家族と過ごす時間が増えた」という評価が多い一方で、「仕事の効率が上がらない」「オンオフの切り替えができない」とマイナス面を指摘する声も少なくありません。うまくいかない要因の一つとして、住まいの条件が大きな影響を与えている可能性が高いのではないでしょうか。

新型コロナの問題が終息したとしてもテレワーク拡大の流れは変わらないでしょう。リクルート住まいカンパニーは、「2020年トレンド予測 住まい領域」を今年1月に発表し、今日の事態を予見していたかのように“職住融合”というキーワードを掲げています。

「テレワークの普及によって、自宅の一部にワークスペースを作る“家なかオフィス化”や自宅と会社以外で仕事をする“街なかオフィス化”、職場に縛られない“街選びの自由化”が進む兆しが現れ、職と住の距離の制約が薄まって来ると考えたからです」(同社SUUMO編集長の池本洋一さん)

これまでの住まい選びでは通勤利便性が重視される傾向が強く、ワークライフバランスの改善につながる“職住近接”を目指すために、ビジネス街の職場との距離を縮める“都心回帰”がトレンドの一つになっていました。通勤という呪縛から解放されれば、住まいや街を見る視点、選び方の優先順位が変わって来るかもしれません。

“職住融合”に向けた新たな住宅ニーズ

では、テレワークを想定した場合に、どのようなニーズがあるでしょうでしょうか。マンションを例に考えてみます。

〔住戸プラン〕

リクルート住まいカンパニーの「テレワーク×住まいの意識・実態」調査(2020年2月25日公表。調査は前年11月)によると、在宅でテレワークを実施した場所は「リビングダイニング」が最多(59%)でした。しかも、作業台は、仕事専用デスク(20%)より、ダイニングテーブル(39%)のほうが多くなっています。

同調査で、これからテレワークが導入される場合に、自宅の環境整備をしたい内容についての回答は、図通りです。

図1. テレワーク促進時に実施したい自宅環境整備

第1位は、資料や備品をしまう「収納スペース」。次に「仕事用の部屋」、「仕事用のスペース」と続きます。やはり、ダイニングテーブルでは物足りないようです。

“職住融合”に向けた新たな住宅ニーズ

堤さんもご自身の経験からこうアドバイスをします。
「在宅ワークでは、ビデオ会議をしたり、電話で顧客と話したり、どうしても家のなかに仕事にかかわる声がとびかうことになります。夫婦共働きで両方が在宅の場合、長時間1つのダイニングテーブルで作業をするのは、かなりのストレスです。寝室に余裕があれば、そちらを活かすのも選択肢の一つ。音と視線をどう遮断するかが課題です。
専業主婦(主夫)の場合でも難しい面があります。夫(妻)がダイニングテーブルで仕事をしている横で、家事が一段落した妻(夫)がリビングでテレビを見ていると、夫(妻)は気が散って作業効率が落ち、妻(夫)はゆっくりくつろげません。子供がいれば、なおのこと大変です。
くつろぐ場所と“稼ぐ場所”が混在していると衝突が起きてしまいますから、独立した部屋があるのが理想でしょう」

〔エリア/街〕

在宅がメインでも、ミーティングや自宅ではできない作業のために出勤するケースもあるでしょう。在宅ワークと通勤の両立を考えるうえで、図2の「通勤時間の許容範囲」に関する調査は参考になります。

図2. テレワーク促進時の通勤時間の許容範囲

テレワークが可能な場合、通勤時間が長くなっても構わないという回答が6割近くに達しています。延長可能な時間でもっとも多いのは10~30分(30%)。エリアの選択肢はかなり拡大しますから、同じ予算でより広い住まいを購入することも可能になるでしょう。

テレワーク時代のマンション選び5つのポイント

最後に、テレワークを意識してマンションを選ぶ際のポイントを整理しておきましょう。

1.希望の広さに“プラス3畳”の余裕

「住まいの中にワークスペースを作る場合、ミニマムで3畳(約5 ㎡ )を目安にすると良いのではないでしょうか。デスクと椅子だけなら2~3㎡でも可能ですが、長時間の作業環境としては快適とはいえません。5 ㎡あれば、書類や備品を置くキャビネット、プリンターなどのOA機器も置けるでしょう」(池本さん)

ちなみに、オフィス家具メーカーなどが推奨するひとり当たりオフィス面積は、会議や業務支援エリアの按分面積を含めて8.5~10 ㎡ 。執務機能だけならこの50~60%です。8.5 ㎡の60%がちょうど5 ㎡となります。

2.“プラス1ルーム”orフレキシブルな間取り

「くつろぐリビングとは離れたところに独立した1部屋があるのが理想です。それが難しい場合は、リビングダイニング、寝室それぞれにワークスペースを作れる余裕が欲しいですね。子供がダイニングで宿題をすることもあるので、気分転換にバルコニーでも作業できるとか、いくつかのスペースを柔軟に使い分けられるといいでしょう」(堤さん)

プラス1ルームのプラン(洋室をワークルームとした例)

窓に面した袖壁を活かしてカウンターを設ければ、ちょっとしたワークスペースに。(ザ・パークハウス 国分寺四季の森)

窓に面した袖壁を活かしてカウンターを設ければ、ちょっとしたワークスペースに。(ザ・パークハウス 国分寺四季の森)

一部屋を丸ごと使えるなら、長時間の仕事にも対応できるように、しっかりしたデスクとチェアを据えて本格的なワークスペースに。(ザ・パークハウス オイコス 金沢文庫)

一部屋を丸ごと使えるなら、長時間の仕事にも対応できるように、しっかりしたデスクとチェアを据えて本格的なワークスペースに。(ザ・パークハウス オイコス 金沢文庫)

テレワークに対応しやすいフレキシブルな間取り例

リビングダイニングと隣り合った洋室は、ワークスペースを作るのにちょうど良い空間。OA関連機器や書類の収納スペースも確保でき、引き戸を閉じれば音や視線を遮って仕事に集中できるでしょう。(ザ・パークハウス あざみ野一丁目)

リビングダイニングと隣り合った洋室は、ワークスペースを作るのにちょうど良い空間。OA関連機器や書類の収納スペースも確保でき、引き戸を閉じれば音や視線を遮って仕事に集中できるでしょう。(ザ・パークハウス あざみ野一丁目)

リビングにつながる洋室は、引き戸を開け放てば採光も十分な明るい雰囲気のワークスペースに。長めのカウンターテーブルを設ければ、夫婦2人での在宅ワークにも対応できそうです。(ザ・パークハウス 青葉台二丁目)

リビングにつながる洋室は、引き戸を開け放てば採光も十分な明るい雰囲気のワークスペースに。長めのカウンターテーブルを設ければ、夫婦2人での在宅ワークにも対応できそうです。(ザ・パークハウス 青葉台二丁目)

3.実用性のある共用施設を備えている

自宅内にワークスペースを確保する余裕がない場合、ワークスペースがあっても家族がいて集中できない場合など、マンションの棟内に、在宅ワークを補う共用施設があると便利です。

「大規模マンションの共用施設といえば、かつてはシアタールームやおしゃれなラウンジなど、エンターテイメントやアメニティ系の施設を設ける傾向がありましたが、これからは、スタディルームやライブラリーなどの実用性に比重を置いた施設も求められるようになるでしょう」(池本さん)

たとえば、ライブラリーなら書棚とゆったりしたソファだけでなく、IT環境が整っていることも重要です。

なお、管理組合の判断により、新型コロナウィルス感染防止のため等の理由で、共用施設の利用が制限される場合もあります。

「ザ・パークハウス オイコス 鎌倉大船」のライブラリー。パソコンなどのデスクワークに向いた電源付の机とイス、Wi-Fi、プリンターなど、ビジネスユースに対応した環境が整えられるという。

「ザ・パークハウス オイコス 鎌倉大船」のライブラリー。パソコンなどのデスクワークに向いた電源付の机とイス、Wi-Fi、プリンターなど、ビジネスユースに対応した環境が整えられるという。

4.乗り換えあり路線のエリアや郊外も見直される

テレワークが進むと、これまでより10~30分余計に通勤に時間をかけてもいいという志向が広がる傾向があります。これまでは、都心に近いエリアや勤務地へ乗り換えなしでアクセスできる主要沿線の急行停車駅などが人気でしたが、今後は、郊外や支線に乗り換える駅の周辺なども見直されると予想されます。

ただし、暮らしと仕事の両面の快適さ、将来の資産性を確保するには、郊外ならどこでも良いわけではありません。次の3つのうちいずれかに当てはまることが望ましいと池本さんは指摘しています。

  • “駅前ワンストップ化”ができるような一定量の商業集積があること
  • 人気駅の隣街。少し足を延ばせば大規模商業施設の揃うターミナル駅にもアクセスできること。
  • 住んでいる人たち自身が暮らしを楽しんでいることが伝わる魅力的なライフスタイルを持ち、街の色合いがはっきりしていること(たとえばSUMMO調査「住民に愛されている街ランキング」の上位の入っているエリアなど)

5.第三の選択肢、サテライト型の施設が街にある

テレワークには、サテライトオフィスやコワーキングスペースも含まれます。
「在宅で不便だと思うところをサテライトオフィスで解消できる面も多いと思います。自宅と会社の二択ではなく、その緩衝材ともいえるサテライト型のワークスペースが住んでいる街の近くにあることも大切です」(堤さん)

京王線「多摩センター」駅の近くでキャリア・マムが運営する託児所付きコワーキング施設「CoCoプレイス」

京王線「多摩センター」駅の近くでキャリア・マムが運営する託児所付きコワーキング施設「CoCoプレイス」

浅草橋のシェアオフィス「シェアオフィス Un.C. -Under Construction」

浅草橋のシェアオフィス「シェアオフィス Un.C. -Under Construction」

共用型のシェアオフィスやコワーキングは、都心周辺のターミナル駅に多い一方で、東京23区以外でも見つかります。シェアオフィス検索サイトなどをチェックするのも有効でしょう。

これからマンションを選ぶときは、以上のようなテレワークとの相性も併せて検討してみてはいかがでしょうか。

<堤香苗さんプロフィール>

株式会社キャリア・マム代表取締役

株式会社キャリア・マム代表取締役

早稲田大学第一文学部・演劇専攻卒業。大学在学中よりフリーアナウンサーとしてTV・ラジオのDJ、パーソナリティとして活躍。1995年、出産育児を機に現会社の前身となる育児サークル『PAO』を設立。2000年に株式会社キャリア・マムを設立。離職した女性たちのキャリア支援や企業のテレワーク導入支援など新しい働き方を推進している。日本テレワーク協会の理事や、内閣府、経産省を始めとする政府委員を歴任し、受賞歴多数。ダイバーシティ、女性のキャリア支援、テレワーク推進等のテーマで講演、執筆の幅広く活動中。

TEXT: 木村元紀
PHOTO: 村山雄一

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