2021年、マンションの価格動向を市場分析のプロが読む

2021年、マンションの価格動向を市場分析のプロが読む

[住まい選びの基礎知識]

2021年01月18日

2020年の新型コロナ禍は国内外の経済、社会に大きな影響をもたらしました。住宅購入を検討している方々も、一時足踏みしたかもしれません。今、まさにマンション選びをしている方も、これから始めようとする方にとっても、気になるのは今後の価格動向でしょう。
市場分析のプロである東京カンテイの井出武さんへの取材を基に、2021年のマンション市況を展望します。

2020年、新型コロナ禍の影響は軽微

図1.新築マンションの平均坪単価推移

まず、2020年のマンション市況を振り返ってみましょう。図1は、新築マンションの価格推移です。これを見ると、緊急事態宣言が出された4~5月を含む第2四半期は、一時的に東京23区の平均坪単価が下がっています。気になる動きですが、どのように判断すればいいのでしょうか。

「緊急事態宣言の時期は、分譲する側も購入する側も活動を自粛していました。首都圏における新築マンションの新規供給戸数は通常1か月で1,000戸を下回るケースはありませんが、当時は300戸台にとどまるなど、過去に例のない異常事態だったわけです。しかもその間は、供給シェアが高い大手デベロッパーを中心に、東京都心部での高額物件の供給を控えていたため、平均価格が押し下げられたといえます。東京多摩地区や横浜市など周辺部では横ばいが続いていますから、同じエリアで分譲価格が実質的に下がる動きは見られていません」(井出さん)

図2.新築マンションの初月契約率の推移

自粛明けの6月頃から、非対面のオンライン販売が始まったこともあり、購入者の動きも徐々に戻ってきました。来場者数の上限を設けながら営業を再開し、物件によっては「7月以降、週末はモデルルームの来訪予約が満席状態」という販売現場の声も漏れてきます。図2の通り、新築マンションの初月契約率は、好調の目安となる70%ラインの前後で推移しています。購入意欲は底堅いと言えるでしょう。

「供給戸数も7月以降に例年の8割ぐらいの水準まで戻っています。市況の回復は、予想以上に速いペースです」(井出さん)

都心3区の動きでわかるマンション市場の“健康状態”

新築マンションの市場は、供給戸数が戻ってきたとはいえ、まだ通常に比べて少なめで、やや不安定な面が残っています。
今後の展望を語るうえでは、データが潤沢にある中古マンション市場をチェックすることが大切だと井出さんは指摘します。

「中古に表れる現象は新築でも起きます。前回、不動産価格が大きく変化したのは“世界金融危機”(※1)でした。その前後5年間の中古マンションのデータを分析するうちに、東京23区で流通している中古マンションの在庫住戸(※2)のデータがカギを握ることが判明しました。特に、千代田区・港区・渋谷区の都心3区の動きを見れば、マンション市場の“健康状態”がわかるというセオリーが見つかったのです」(井出さん)

※1
世界金融危機は、2008年9月のリーマンショックを挟んで2007年から2009年にかけて起こった世界的な景気後退のこと。その間、中古マンション価格は、2006年頃から2007年にかけて高騰。2008年1月から下落し始め、約1年半後の2009年5月に底を打ち、翌月から反転上昇しました。
※2
在庫住戸とは、新規に売り出された月に売れずに、翌月以降も継続して売り出され、市場に滞留している住戸のこと。

東京23区の中古マンション価格は、世界金融危機が起きる前の「平常時」と、リーマンショック前後の「悪化時」に、明らかに異なる傾向を示しました。それぞれの状態を典型的に示したのが図3-1と図3-2です。

図3-1.中古マンションに関する在庫住戸の坪単価と下落率との相関関係、その1
図3-2.中古マンションに関する在庫住戸の坪単価と下落率との相関関係、その2

この図か導かれるセオリーは次の通りです。

<平常時>市場が健全な状態/安全圏

  • 在庫住戸の下落率が、ほぼマイナス1%より上
  • 在庫住戸の坪単価が高いほど、下落率が小さくなる右肩上がりの相関関係を示す
  • 都心3区(千代田、港、渋谷)が右上にある

<悪化時>市場が良くない状態/危険ゾーン

  • 在庫住戸の下落率が、ほぼマイナス1%より下
  • 在庫住戸の坪単価が高いほど、下落率が大きくなる右肩下がりの相関関係を示す
  • 都心3区(千代田、港、渋谷)が右下になる

つまり、中古マンションの在庫住戸が<悪化時>の状態になると、「市場がこれから悪くなる、価格が下がり始める」という先行指標になるわけです。では、2020年はどうなっていたのでしょうか。

図4.2020年、新型コロナ禍における在庫住戸の坪単価と下落率との相関関係

緊急事態宣言が出された4月から9月までの半年間の動きを示したのが図4です。
4月は、いくつかの地点で下落率がマイナス1%にかかっていますが、5月以降はずっとマイナス1%より高い状態。しかも、右肩上がりの相関関係で、都心3区が常に右上に位置しています。

「4月は危険ゾーンに近づいていたため警戒していましたが、その後は安全圏に入っています。新型コロナ禍でも、とても健康な状態です。今後も悪化する可能性は低いでしょう」(井出さん)

マンション用地の地価下落はない? 低金利・税制優遇の追い風も続く

地価の動きもマンション市場に影響します。2020年9月に、「基準地価」の変動率が3年ぶりに下落に転じたと発表されました。基準地価は前年の7月から1年間の地価動向を調査した公的指標です。
2019年7月から12月までの前半と、新型コロナ禍を含む2020年1月から6月までの半年に分けてみると、さらに大きな変化が出ていることがわかります(図5参照)。

前半にプラスだった変動率が、後半にマイナスに転じています。明らかに新型コロナ禍の影響が出ているのがわかるでしょう。
商業地が大きく下がっているのは、訪日観光客の減少や外出自粛などのため、繁華街や観光地の景況が大きく悪化した点が響いたようです。
住宅地も下がっていますが、商業地ほど大きな動きではありません。今後、マンション用地などへの影響はあるのでしょうか。

図5.2020年の基準地価、新型コロナ禍で下落

「住宅地で地価が下がったのは、郊外寄りの戸建てエリアが中心です。都心に近いマンションエリアでは、上昇率が鈍化した程度で、下がってはいません。インバウンド需要の減少でホテル用地が値下がりして、マンション用地を安く取得しやすくなるという見方もありました。しかし、いくら待っても下がらないため、デベロッパーは、2020年7月以降、以前と同じ価格で用地仕入れを積極化していると聞いています。現状では、全般的な地価下落がマンション価格の値下がりにつながる兆しは見えていません」(井出さん)

その他、購入する際の資金計画に関係する要素としては、住宅ローン金利や税制などがあります。

「景気が低迷する状況の中で、日銀も金融緩和政策を継続すると表明していますし、当面は低金利が続くのではないでしょうか。税制面でも、住宅ローン減税の控除枠拡大の期限を2年間延長する措置が令和3年度税制改正大綱(※3)に盛り込まれるが出るなど、住宅購入への追い風が続いています」(井出さん)

※3
「令和3年度税制改正大綱」は2020年12月21日に閣議決定。正式な成立は通常国会通過後。

生命と財産を守る住まいへの志向が強まり、住宅需要を下支え

住宅ニーズの変化もマンション市況に関係します。
「テレワークが定着すれば郊外や地方に居住する人が増え、オフィスの分散化が進む」という説も、しばしばメディアで取り上げられました。インターネットの住宅検索サイトで郊外物件の閲覧数が増加したり、ずっと人口の転入超過が続いていた東京都が2020年7月から9月まで3カ月連続で転出超過になったり、人々の行動変化が見られるのも事実です。
こうした動きが、マンション価格に影響するのでしょうか。

「確かに、郊外のマンション販売センターがコロナ前より活況という現場の声は聞こえています。ただ、少なくともデータ上では、郊外のマンション取引が大幅に増えたとか、郊外のニーズが高まって価格が上がったという状況は表れていません。都心のマンションは相変わらず人気が高い。『都心から郊外へ』という消費行動の変化がトレンドになり、価格に変化を及ぼしているとまでは言えないでしょう」(井出さん)

一方で、今回の新型コロナ禍を経て、確実に変化した点もあるようです。

「住まいは自分の生命や財産を守る場という意識が、以前より高まっていると感じています。選ぶ視点が、職場中心から自宅中心へとシフトし、居住性や資産価値の高い住まいを積極的に購入したいという意欲が強まっているのではないでしょうか」(井出さん)

こうした傾向は住宅需要を下支えし、ひいては価格が下がりにくい市場につながります。以上の点を総合すると、2021年のマンション価格が大きく値下がりする可能性は低いのではないでしょうか。

<井出武さんプロフィール>

<井出武さんプロフィール>

1964年東京生まれ。
1989年マンションの業界団体に入社、以降不動産市場の調査・分析、団体活動に従事、2001年株式会社東京カンテイ入社、現在は市場調査部上席主任研究員。
不動産マーケットの調査・研究、講演業務等を行う。

TEXT:木村元紀
PHOTO:村山雄一

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