データで見る!土地・マンション価格を専門家が解説

2021年度後半 マンション市況データで見る!土地・マンション価格を専門家が解説

[住まい選びの基礎知識]

2021年09月07日

新型コロナ禍の影響が続くなか、不動産市場に変化が現れています。公的な地価指標が下落に転じる一方で、中古マンション価格が上がり、新築マンション価格は高水準で推移するなど、不動産の種類や地域によってさまざまな動きが出ているのです。2021年秋からの不動産市場はどう動いていくのでしょうか。
不動産の総合調査機関である日本不動産研究所の専門家のおふたりに、 現在の市況分析と今後の行方を聞きました。

「土地の価格が値下がりしてる?」実際の動きを探る

この7月に発表された今年の路線価は、全国平均が前年比▲0.5%となり、6年ぶりに下落しました。
路線価とは、相続税と贈与税を算定する際の土地評価の基になる公的指標の一つです。3月に発表された公示地価も「大都市圏で8年ぶりの下落」と報じられました。
こうした報道を見ると、地価、つまり土地の価格が全般的に下落基調に入ったかのように思えますが、実際はどうなのでしょうか。

不動産市場の調査分析に長年携わっている山下誠之さんはこう解説します。
「路線価は、毎年1月1日時点の地価水準を基に決められています。つまり、この7月に発表された路線価は、新型コロナ禍が始まった2020年の春を含む1年間の動きを示しているわけです。
しかし、2020年秋から2021年春にかけて、その前の半年とは異なる動きが現れています。特に大都市圏に限ると新型コロナ禍の影響は大きくないことが、当研究所が半年ごとに調査している地価動向を見るとよくわかります」

図1を見ながら、詳しく説明しましょう。

過去5年ほど上昇基調にあった地価変動率は、2020年9月に、全国平均、東京圏ともに、住宅地と商業地の両方がマイナスになりました。新型コロナ禍の影響を受け始めた当初の動きが反映されているわけです。
しかし、2021年3月になると、他がマイナスのままなのに対して、東京圏の住宅地は0%と横ばいに戻っています。

出典:一般財団法人 日本不動産研究所「市街地価格指数」を基に作成。市街地価格指数は、毎年3月と9月時点の地価を調査して指数化したデータ。

出典:一般財団法人 日本不動産研究所「市街地価格指数」を基に作成。市街地価格指数は、毎年3月と9月時点の地価を調査して指数化したデータ。

また、東京圏内の住宅地を都府県別に見ると、地域による差がよくわかります(図2参照)。
東京都区部と東京多摩地区は、新型コロナ禍でもほぼマイナスに落ちることなく横ばいを維持しています。
千葉県はずっとプラス、埼玉県は一時マイナスになったものの2021年3月にプラスを回復しています。
なお、地価の下落が続く都市が多い神奈川県では、従来からマイナスで推移していますが、足下で下落幅が縮小に転じたことは他県の傾向と同様です。

出典:図1と同様

出典:図1と同様

「さらに、地価水準の高い地点を選んで四半期ごとに国土交通省が調査している『地価LOOKレポート』によれば、2021年の第1四半期(1~3月)の動きは、用途や地点によって大きく異なります。
東京都心部でも、銀座、六本木、新宿歌舞伎町など緊急事態宣言による人流抑制の影響が強く出ている繁華街などの商業地は下がっていますが、同じ商業地でも丸の内や日本橋などのオフィス街は横ばい。住宅地として著名な都心の番町や南青山、やや郊外の二子玉川や吉祥寺は上昇しています。
横浜市や川崎市でも、商業地、住宅地ともに上昇している地点があります。東京圏の住宅地については、横ばいか上昇で推移しているといえるでしょう」(山下さん)

出典:国土交通省が2021年6月に公表した「主要都市の高度利用地地価動向報告~地価LOOKレポート~」(【第54回】2021年第1四半期の動向)のうち「東京都区部」のマップより抜粋

出典:国土交通省が2021年6月に公表した「主要都市の高度利用地地価動向報告~地価LOOKレポート~」(【第54回】2021年第1四半期の動向)のうち「東京都区部」のマップより抜粋

中古マンションは需要が高まり、価格が上昇傾向に

地価動向は、住宅の素地に関する動きともいえます。では、土地・建物を含めた住宅価格はどうでしょうか。
初めに、不動産の市況を敏感に反映するといわれる中古マンションについて取り上げます。

図4は、中古マンションの価格動向を指数化したデータで、東京圏の1都3県をピックアップしたものです。
地域内の全物件の単純平均ではなく、日本不動産研究所がマンションの売買事例を集め、そのマンションが以前に売買された時との差額を基に、それぞれの期間の価格の変動を抽出したデータのため、より実勢を反映しているといえます。
このグラフを見ると、千葉県を除いて、この4~5年間は横ばいから緩やかな上昇傾向が続き、2020年後半、つまり新型コロナ禍以降に上昇率が高まっている状況がわかります。上昇率の変化と関係すると思われるデータが図5の成約状況です。

出典:一般財団法人 日本不動産研究所「不動研住宅価格指数」を基に作成

出典:一般財団法人 日本不動産研究所「不動研住宅価格指数」を基に作成

出典:東日本レインズ「Market Watch」を基に作成

出典:東日本レインズ「Market Watch」を基に作成

このグラフは、各年の上半期に東京圏で売買が成立した中古マンションの件数を集計したものです。
2020年の上半期は、最初の緊急事態宣言が出され、不動産業界全般が営業自粛などにより取引自体が激減したものでイレギュラーな数値といえます。この年を除くと2017~19年は1万9000件台で安定していましたが、2021年には2万件を突破。
新型コロナ禍にもかかわらず、例年以上の成約を示しているのです。

中古マンションの一連の動きについて、不動産エコノミストの吉野薫さんは、こう分析します。

「新築マンションの購入希望者が、中古マンションや郊外の戸建てに向かい、需要の受け皿になっているのは、ここ数年の傾向です。
価格上昇の角度が上がっているのは、昨年、新築マンションの供給戸数が大幅に減った結果、中古を志向する需要が今までより厚みを増して出て来たからではないでしょうか。

不動産エコノミストの吉野薫さん(2018年10月開催セミナー時の様子)

不動産エコノミストの吉野薫さん(2018年10月開催セミナー時の様子)

また、中古マンション市場が活況になって価格が上昇傾向になると、立地の良い物件や手入れの行き届いた品質に優れた中古マンションが売り出されやすくなり、買い手も価値に見合う物件なら価格が高めでも購入するようになるという好循環が起きてきます。
こうした傾向が、2021年の上半期において重なり合い、中古マンションの取引戸数の増加や単価の上昇という形で現れたと考えられます」

新築マンションの価格は、今後どうなる?

次に新築マンションの価格動向を見てみましょう。図6は2021年上半期までの東京圏の1㎡当たり単価の推移です。

出典:不動産経済研究所データを基に作成。月次データは価格の振幅が大きくなるため四半期ごとのデータとして再集計

出典:不動産経済研究所データを基に作成。月次データは価格の振幅が大きくなるため四半期ごとのデータとして再集計

東京都区部は、2019年10月の消費税率アップを機に一時落ち込んだ後に回復し、新型コロナ禍を経ても高い水準を維持しています。中古マンション価格のような右肩上がりではありませんが、やや上昇気味ともいえるでしょう。その他のエリアは、ほぼ横ばいに近い状態です。さらに、新築マンションの月間契約率は、2021年に入ってから好調の目安とされる70%前後を保ち、売れ行き状況も悪くありません。この状況について、山下さんはこう解説します。

「過去のマンション・ブームにはなかったパターンの価格動向です。以前のブームでは、需要が高まり価格が上昇すると、多数のデベロッパーが参入して供給が増える、価格上昇率が高まって購入可能額を超えてくると、供給量が多いまま需要が減り価格が下がる、というサイクルをたどるのが一般的でした。
今回は、価格が上昇してもマンション分譲事業に新規事業者の参入が少なく、供給も増えていません。価格も購入者がなんとか付いてこられるレベルに留まっています。

不動産鑑定士の山下誠之さん(2019年12月開催セミナー時の様子)

不動産鑑定士の山下誠之さん(2019年12月開催セミナー時の様子)

また、新築マンション価格を単純平均したデータでは、地域によって好立地高価格のシェアが増えた結果、実態よりも大きく上昇しているように見える可能性があります。地域や品質が同じ物件を定点観測すれば、もう少し穏当な上がり方になるのではないでしょうか」

出典:不動産経済研究所データを基に作成。2021年は上半期

出典:不動産経済研究所データを基に作成。2021年は上半期

新築マンション価格がこの10年近くも継続的に上昇してきた状況を「バブル」と批判的に見る論調もありますが、これに対して吉野さんは疑問を呈します。

「投資物件は利回りが低下し価格が上昇していますが、投資家のリスクへの感度が鈍って物件取引の過熱感を助長しているような状況ではありません。マンション市場も同様に、現在は、購入者が買い急ぐことなくじっくりと検討して、予算に見合う物件だと判断すれば購入するという、まさに成熟した健全なマーケットと言えます」

価格動向を踏まえた、これから買うときのポイント

以上の点を踏まえて、不動産価格は今後どうなるのでしょうか。山下さんは次のような見方をしています。

「当研究所の調査によれば、地価については、今後の半年間で東京圏の住宅地は▲0.1%、つまり、ほぼ横ばいと見ています。
中古マンション価格は、新築マンション価格に対する割安感が次第に縮小していますから、いずれ上昇に歯止めがかかるのではないかと注視しているところです。
新築マンション価格は、金利や景気動向が大きく変わらない限り、当面は現状の水準を維持する可能性が高いでしょう」

2018年10月開催セミナー時の様子

2018年10月開催セミナー時の様子

住宅購入能力を大きく左右する金利動向に関して、アメリカの木材価格の高騰を始めとするインフレが引き金になって上昇することを懸念する声もあります。これに対する吉野さんの分析は明快です。

「アメリカの建築費急騰に関しては、戸建て住宅市場への影響を注視する必要はありますが、少なくともマンション市場の需給に直接的に影響する可能性は低いでしょう。
金利についても、現在の金融政策の枠組みから見れば、5年ぐらいのスパンで日本の低金利が続く確率は高いと思います。海外の状況に一喜一憂する必要はありません」

2019年10月開催セミナー時の様子

2019年10月開催セミナー時の様子

これから住宅購入を検討している方向けに、吉野さんは最後にこんなアドバイスをしてくれました。

「住宅を購入するにあたって、リセールバリューや家を持つこと自体のステータスを気にする人はもちろん多いと思いますが、究極のところ、住まいは毎日の暮らしの中で幸せを繰り広げられるかどうかが価値の源泉です。
その重要性を改めて意識させられたのが、新型コロナでした。これまでの住まい選びのポイントは立地最優先でしたが、多少遠くても環境の良さや住まいの広さを求める消費者の選択の多様性が広がりました。
デベロッパー各社も、多様な住まい方、暮らし方に向けた新しい商品設計を提供しつつあります。立地もプランも可能性が広がっている中で、住まい選びの原点に立って検討してみてください」

不動産市況が比較的落ち着いている中で、都心か郊外か、値上がり率が高いか低いかといった二者択一の比較からいったん離れ、じっくり腰を落ち着けて購入先を選んでみてはいかがでしょうか。

<プロフィール>

山下誠之さん

山下誠之さん

一般財団法人日本不動産研究所・研究部長兼国際部長、不動産鑑定士、MRICS(英国を本部として世界的に活動する不動産の専門家団体のメンバー)。不動産インデックスの企画開発、オフィス市場の予測モデルに関する調査研究、商業施設やホテル等の証券化や大規模複合開発プロジェクト等の鑑定評価等を担当。証券化対象不動産の鑑定評価のルールを定めた不動産鑑定評価基準の改正における国土審議会不動産鑑定評価部会委員等を歴任。

吉野薫さん

吉野薫さん

一般財団法人日本不動産研究所・主席研究員、不動産エコノミスト。東京大学経済学部卒、東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。日系大手シンクタンクのリサーチ・コンサルティング部門を経て現職。国内外のマクロ経済と不動産市場の動向に関する調査研究を担当するとともに、大妻女子大学、国際基督教大学で非常勤講師を務めている。

TEXT:木村元紀

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