インサイド・レポート耐震への取り組み…「免震」とは何か。最新の地震対策に迫る
2013年04月30日
耐震構造と免震構造とは
現在の耐震基準の建物は、震度6強〜7クラスの地震でも倒壊・崩壊することはない。しかし、阪神淡路大震災の被災写真でも明らかなように、耐震構造では建物へのダメージを回避することはできない。「限りなく被害ゼロに近づけるために」今、新しい工法が普及しつつある。それが、「免震構造」である。
今回の特集では、免震構造誕生の経緯から、地震時に免震構造の建物では何が起こり、どのように安全を確保しようとしているのか?といった基本的な疑問まで、構造設計担当者や、免震構造のマンションに住まう人の声も交えてお伝えしよう。
免震構造のマンションは地震でも揺れない?
建物の構造システムにおいて、「耐震」と「免震」は発想がまったく異なるものである。
「耐震」とは大きな地震の力が働いても、それに対抗しうるだけの強度を建物にもたせることである。しっかりとした地盤に杭を打って基礎部分と構造体を固定し、簡単に倒壊しないよう頑丈に造る。
対して「免震」は、地震の力を免れるために、それを伝える地盤からいかに構造体を「切り離す」か、という発想に立った工法である。
実は「地盤と建物を切り離す」という免震建築のアイデアは、日本でも100年以上前から提案されていた。地震の被害を免れることは、地震国日本の建築にとって、悲願でもあり夢でもある。しかし、技術的な課題もあり、ほとんどは実用化に至らず、夢のままついえてしまったのだという。
日本で国内初となる免震建築が誕生したのは1983年のこと。今から約30年前のことである。1970年代に、現在多くの免震装置で使われている積層ゴムが開発され、地震工学の発展やコンピュータによる解析技術の向上も、免震建築の開発に大きく寄与した。

地震特有のせん断破壊によって外壁にひびが入ったマンション。
橋梁のような大型の構造物をはじめ、ライフライン施設、研究所、病院、電算センター、美術館など、特に地震に対して配慮を必要とする建築物に免震構造が採用され、1990年代には、マンションなどの一般住宅にも免震構造が登場する。
「免震構造のマンションと聞くと、『地震があっても揺れないんですよね』という方がいますが、これは間違いです」と、構造設計担当 平松幹夫。では、免震構造の建物では地震時に何が起こるのか、どのようなメリットがあるのか、平松の説明を交えてみていこう。

ゴムと鋼板が幾重にも重なっている。ゴムの柔かさによって、建物をゆっくり揺らして地震の揺れができるだけ建物に伝わらないようにし、鋼板の硬さによって建物を安定的に支えている。
大地震の激震を緩和する免震装置
免震構造の建築物は、基礎の上に「免震層」と呼ばれる部分が設けられる。ここが「地盤と構造体を切り離す(絶縁する)」役割を果たしているのだ。免震層には、「アイソレーター」と「ダンパー」という装置が設置される。
多くの場合、アイソレーターにはゴムと鋼板がサンドイッチ状になった積層ゴムが用いられ、建物の荷重を支えながら地震の急激な揺れを緩和して、建物全体をゆっくりと揺らす。ダンパーは揺れ幅が必要以上に大きくならないように抑え、地震後いつまでも建物を揺らしておかないようにブレーキの役割を果たしている。
免震装置は、建物を地震時に揺らさないためのものではなく、急激な揺れをゆっくりとした動きに変える働きをしているのである。
「耐震構造では、壁などにヒビ割れが入ることによって地震の力を逃がして構造体へのダメージを軽減するために、建物の損傷を皆無にすることはできないのです。
免震構造では、構造体への負荷や内部空間への影響は、3分の1から5分の1程度に軽減されるために、建物はもとより内部空間での大きな損傷はまず起こらないと想定されています」と平松。
建物の揺れが軽減されることで、家具の転倒などによる人的被害が抑えられるだけでなく、家財や配管等の損傷も避けられ、地震後、より速やかに通常の生活に戻ることが可能となる。さらに、マンションの資産としての価値保全につながるのだ。
ここで、実際に免震構造マンションの高層階で地震を経験した人の話を聞いてみよう。
居住者の安心感も大きなメリット
阪神淡路大震災と同様の揺れを再現したシュミレーションCG。他の条件は同じでも、免震構造(右)と非免震構造※(左)には揺れ方やダメージに大きな違いがある。
- ※
- 上部構造躯体は免震構造のものと同じです
2005年夏、千葉北西部を震源とし、首都圏でも震度5弱の揺れが観測された地震があった。この地震を免震構造マンションの高層階で体験したオーナーさんは、「すこーしずつ、ゆったりと揺れるんです。揺り籠に乗っているような感じといえばいいかな」
激しい振動がないために、まったく慌てることもなく落ち着いていられたという。
慌てたために室内で転倒した、調理中の鍋でやけどをしたなど、大地震には二次的被害も少なくない。居住者の心理的な安心感は、二次災害を防ぐ上でも大きなメリットといえるだろう。
さらに、梁や柱を頑丈にするために、設計上の制約を受けやすい耐震構造に比べて、免震構造ではそれらをスリムにして居住性を高めることもできるという。
ところで、建物の下にある免震装置は交換できるものなのだろうかと平松に聞いた。
「免震装置に使われる積層ゴムの耐用年数は60年以上といわれています。内部ゴムの周囲を被覆ゴムで覆うことにより、ゴムの劣化を促進するオゾンや紫外線などから内部ゴムを守っているので、建物本体と同じくらいの耐用年数があります。仮に装置を交換しなければならないとしても、建築的には十分可能なことです」
このように地震対策としては、現在もっとも効果を発揮するといわれる免震構造だが、まだすべての物件が免震構造を採用しているわけではない。
「免震構造にするためには多くの制約がありました。数年前までは、超高層マンションや、複雑な形状のマンション、難しい条件の地盤の地域などでは免震装置は使えませんでした。しかし、技術の進歩によって、短期間のうちに、こうした制約はなくなりつつあります。これらを踏まえ、マンションデベロッパーとして、今後より積極的に免震構造に取り組んでいくべきと考えています」
免震構造は設計、認可等に要する期間も長く、もちろん装置の費用もかかる。商品としてのマンションを考えると、まだ課題は多く残されているのが現状だ。
しかし、近年、建物の性能が向上して耐用年数が長くなり、マンションは生涯の住まいとなっている。一生に一度起こるか起こらないかの大地震であるとはいえ、備えとしての免震マンションの価値は日増しに大きくなっていると言えるだろう。
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- 社名・所属部署・肩書・名称などは取材当時(掲載年月:初出2007年6月)のものです
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