2026.04.08
#本藍染の美#京の藍色#藍のあるくらし
京都に息づく本藍染の現在。
伝統技法を守り、暮らしへ広げる
田畑や河川が近く、
四季の移ろいが色濃く表れる京都の地で、
古くから暮らしと結びつきながら
育まれてきた藍染。
日本における藍染めは奈良時代から続く
歴史があると言われています。
徳島・佐藤家の蒅との出合いをきっかけに、
日本古来の技法と真摯に向き合い、
藍の本質を見つめ直してきました。
伝統を守ることと、今の暮らしにつなぐこと——
その両立について、
本藍染雅織工房代表の中西さんに
お話を伺いました。

藍染に欠かせない原料

藍の色は48種類にも及ぶ
受け継がれる藍の系譜
出合いが導いた一つの答え
京都は古くから染織文化が息づく土地であり、その流れの中で中西さんもまた、藍と真摯に向き合い続け、日本独自の藍染技術を礎に京都でものづくりを行っています。「転機となったのは、伝統的な技法を守る佐藤家が製造した『蒅』との出合いでした」と中西さんは話します。蒅とは、藍の葉を発酵させて作る染料の原料であり、藍染の品質を大きく左右する存在。中でも佐藤家の蒅の力強さと奥行きのある色味に強く惹かれたといいます。佐藤家が蒅に利用するタデアイは、白花小上粉と呼ばれ、「京の水藍」として栽培されていた種。佐藤家は国内で唯一、江戸時代の染料製造方法を現代まで途切れず継承しています。
日本の伝統色において藍の色は48種類にも及ぶとされます。「藍白」「浅葱色」「勝色」など、わずかな違いの中に名前が与えられてきたことからも、日本人がいかに藍の色彩の機微を大切にしてきたかがうかがえます。 さらに、藍は単なる「色」ではなく、暮らしを支える知恵でもありました。元来、藍は日本人の暮らしの中にごく自然に存在してきました。生地を染めるだけでなく、防虫や防臭、制菌といった実用的な働きを持ち、衣服に用いればあせもやかぶれを防ぐなど、身体を守る役割も果たしてきたのです。
そして、藍染めの工程は、自然のリズムと密接に結びついています。一年草であるタデアイは、3月に種を蒔き、夏に葉を刈り取ります。その葉を乾燥・発酵させ、9月から12月初旬にかけてじっくりと育て上げたものが蒅です。さらに、それを丸めて固めたものが藍玉となり、染料として使われていきます。時間と手間を惜しまないこの工程こそが、JAPAN BLUEと称される深く美しい藍色を生み出す土台となっています。

丁寧に手入れをしながら使い込まれた藍甕

絞り方や染める回数によって美しい柄が生まれる
甕の中で息づく藍と向き合う
平安から続く、藍染の核心
中西さんが行う染めは、「本藍染」と呼ばれる、日本古来の技法です。中でも平安時代から続く「天然灰汁醗酵建藍染」を採用しています。この技法は、化学薬品を使わず、蒅、樫木の灰汁、日本酒、石灰、麸だけを用いて藍を建てる方法です。「藍を建てる」とは、藍染めに用いる染料(藍液)をつくるために、藍を発酵・還元させ、布を染められる状態へと整える工程のことです。染料を発酵させて作るための藍甕の中では微生物が生きており、その働きを見極めながら染めを進めていく必要があります。「藍は生き物のように日々状態が変化します。気温や湿度、甕の機嫌によって色の出方も異なるため、常に対話するように向き合うことが欠かせません。これは、日本酒や味噌づくりにも通じます。人の手で環境を整えながらも、最終的には微生物の働きに委ねる――藍染もまた、日本の発酵文化の延長線上にある技術といえるでしょう」
工房では、藍建てした藍液を常時5〜6種類用意。発酵状態や濃度の異なる藍液を使い分け、求める色味や質感に応えます。藍液の状態は、香りや泡立ちなどに加え、職人が舐めて日々、確認します。布を染液に浸して空気にさらすと藍色が現れ、この工程を重ねるほどに色はより深みを帯びていきます。濃い藍色にするときには30回以上染め重ねることもあるのだとか。
化学薬品を使用せず天然の素材だけで染めるこの「天然灰汁醗酵建藍染」は、非常に手間と時間がかかる技法ですが、その分、色落ちが少なく、生地を傷めにくいという特徴があります。また、防虫・防臭・制菌といった藍本来の機能も損なわれません。この技法にこだわり続ける理由について、中西さんは次のように語ります。
「昔からの伝統的染色技法は手間もかかりますが、だからこそ、そこにしか出せない色や質感があります。効率だけでは測れない魅力が、この技法にはあると感じています」

工程を重ねるごとに濃く色づく

代表 中西秀典さん
日本文化の中枢を支えながら
藍を“暮らし”へと広げていく
また、日本古来の技法を守る中西さんは、これまでに数多くの格式ある仕事も手がけてきました。神社仏閣への奉納品の制作や、皇室で養蚕されている非常に貴重な蚕「小石丸」の絹糸を染めるなど、日本文化の中枢に関わる仕事も少なくありません。そして活動は国内だけでなく、インドネシアの王室へ作品を寄贈するなど、海外でも広く活躍されています。一方で、伝統にとどまらず、現代の暮らしに寄り添う染めにも取り組んでいます。住宅用のカーテンや、アパレル製品の染色など、藍を日常空間に取り入れる試みもその一つです。空間全体を包み込むような藍の色は、落ち着きと奥行きをもたらします。また、調湿効果や制菌効果、紫外線カットなど、うれしい効果が多数あるのだとか。
近年ではパールの染色にも挑戦しています。年月を経て艶が失われたパールに藍を重ねることで表面がコーティングされ、新たな表情と価値が生まれます。素材の持つ時間を否定するのではなく、受け入れ、次へとつなぐ仕事です。
「着物だけでなく、石鹸やTシャツなど、より気軽に藍に触れられるアイテムの制作にも力を入れています。イベント等を通じて、入口としての藍を提案し、多くの方の暮らしへ自然と取り入れてもらえるよう、模索を続けています」
伝統を守ることと、広く開いていくこと。その両立を試みながら、藍の可能性を静かに、しかし確かに、現代へと広げ続けています。
縁と時間が染め上げる
手を入れ受け継ぐ藍の価値
手を入れ受け継ぐ藍の価値
藍を通して考える私の「一生もん」は、やはり「縁」ですね。人とのつながりが次の世代へと受け継がれ、伝承を支えてくれる。さらにその縁が新たな縁をつなぎ、藍の魅力に共感した人々が輪を広げ、活動を後押ししてくれる。京都で藍染を続けるということは、過去から受け取ったものを、そのまま守るだけではなく、今の暮らしにどうつなげるかを考え続けることでもあります。
また、長年使い続けている藍甕もそうです。藍染にとって欠かせない大切な道具だからこそ、丁寧に手入れをしながら使い続けているので、時間とともに愛着が深まっていきます。京都は、長く使い続けること、一生付き合うことを大切にする文化が根付いている場所だと思います。流行っては消えるものではなく、手を入れながら受け継いでいくものが、当たり前にそばにあります。
暮らしの中で人を守り、支えてきたもの。その価値を、これからも京都から日本中、世界中に伝えていきたいと思っています。
本藍染雅織工房 代表 中西 秀典

本藍染雅織工房
(ほんあいぞめみやびおりこうぼう)
(ほんあいぞめみやびおりこうぼう)
- 所在地
- / 京都市山科区小山中島町9-9
- 交通
- / 京阪電車京津線追分駅より徒歩18分
※記載の写真、内容は取材当時(2026年2月)のものです。

















