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リノベーションマンション
という新しい選択

近年、市場拡大するとともに存在感が増しているリノベーションマンション市場の実態について、
株式会社不動産経済研究所の 田村 修 代表取締役社長にお話を伺いました。

田村 修(たむら おさむ)
不動産経済研究所 代表取締役社長

1960年生まれ。青森県出身。出版社勤務などを経て、1985年4月に㈱不動産経済研究所入社。日刊不動産経済通信の記者として不動産関連業界や行政を取材。総合不動産会社やマンションデベロッパー、不動産仲介会社、マンション管理会社、ハウスメーカー、Jリート、アセットマネジメント会社、国土交通省、内閣府などを担当。2008年2月日刊不動産経済通信編集長、2015年5月取締役編集部門・事業企画部門統轄。2017年2月取締役編集事業本部長。2019年2月日刊不動産経済通信編集長兼任、2022年4月現職。

注目度増すリノベーションマンション市場

中古のマンションを買い取って最新の仕様や設備、デザインなどにリフォームしてから販売するリノベーションマンションがここ数年、注目度を増しています。リノベーションマンション事業を手掛ける企業が近年増えており、新たなマンション販売の形態として一定の市場を形成するようになってきました。

リノベーションマンションの事業方式は大きく二つあります。一つは中古の区分所有マンションを1戸単位で購入し、リフォームして販売する手法。もう一つは企業の寮や社宅、賃貸マンションなどを1棟丸ごと取得し、共用部を含めて大掛かりな改修工事を行って分譲するやり方です。どちらも既存の物件を買い取ってから再販売するため、リノベーションマンション事業は買取再販事業と呼ばれています。

区分所有マンションは新築分譲マンションと中古マンションに分かれます。リノベーションマンションは新築ではないため、中古マンションに分類されますが、新築物件並みの内装仕上げを施していることから、新築と中古の中間的な位置づけのマンションと言えます。新築か中古かというマンションの選択肢にリノベーションマンションという新たな商品分野が加わったのが現在のマンション市場です。

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市場の変化などによって高まる存在感

リノベーションマンションが注目されている背景には、マンション市場の変化があります。新築マンションは2010年代以降、供給戸数が減少傾向にあります。首都圏では1990年代半ばから2000年代半ばまでの約10年間、年平均で約8万戸が発売され、ピークだった2000年には年間供給戸数が9万5000戸を超えました。しかし、2008年のリーマン・ショックを境に供給戸数が大きく減り始め、年間で約4万戸と市場規模が半分になってしまいました。2021年の年間供給戸数は3万3636戸で、コロナ禍の影響で大きく落ち込んだ前年より23.5%増加しましたが、ピークに比べると3分の1近くまで減少しています。

一方で、中古マンションの成約件数は安定的に増えています。90年代半ばから始まった大量供給期に発売されたマンションが良質なストックとして積み上がり、流通市場で売買されるようになっています。首都圏のマンション市場は長らく、新築物件の供給戸数が中古物件の成約件数を大きく上回っていました。しかし、2016年に中古マンションの成約件数が新築マンションの供給戸数より多くなり、新築と中古が逆転しました。その流れは続いています。東日本不動産流通機構によると、2021年の首都圏の中古マンション成約件数は前年比11.1%増の3万9812件で過去最高を更新しました。約4万件の市場となり、新築の戸数を6000戸以上上回りました。

新築分譲マンション供給戸数、中古マンション成約件数の推移
※新築:株式会社日本経済広告社調べ/中古:東日本不動産流通機構調べ

統計数字はありませんが、売買仲介を行っている不動産流通企業の間では、中古マンションの成約件数のうち、3割近くがリノベーションマンションを販売する買取再販事業者との取引ではないかと言われています。そのため、首都圏のリノベーションマンションの年間販売戸数は1万戸前後に達していると推計されています。新築マンションの供給が減少傾向にあるなかで中古マンションの取引が増加していることを考えると、今後はリノベーションマンションの市場がさらに拡大し、マンション市場全体における新たな主流になる可能性があります。これまでのマンション市場は新築が主体でしたが、今は中古物件の流通が量的には新築の供給を上回り、市場での存在感を確立しています。国の住宅政策も中古住宅市場とリフォーム市場の活性化策を強化しており、今あるストックの有効活用をより重視する方向に転換しています。

ストック再生にも寄与、評価される資産性

国土交通省の推計によると、2020年末時点で全国の分譲マンションストックは約675万戸あります。築年数の古いマンションのストックも相当数積みあがってきていますが、新耐震基準に適合(昭和56年6月1日以降に建築確認済証を取得)したマンションで、共用部の管理がしっかり行われているマンションは長く住み続けることができます。

リノベーションマンション事業は膨大なマンションストックの有効活用であり、古くなった設備や仕様、ライフスタイルの変化などで合わなくなった間取りをニーズに合った最新のものに再生するため、社会的な意義も大きいです。ストックを再生して新たな付加価値を与えるリノベーションマンション事業は、国連が2030年までの達成を目指しているSDGs(持続可能な開発目標)にも適っています。

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リノベーションマンションは資産性の面でも注目されます。購入した中古マンションを自分でリフォーム工事を発注してリノベーションを行うより、一定量のリノベーションマンションをコンスタントに供給している買取再販事業者が実施するリノベーションの方がコストを抑えられるため一般的には安くなります。また、新築マンションを分譲しているデベロッパーが手掛けるリノベーションマンションは商品企画の最新トレンドという新築物件のノウハウが反映されており、売買市場での流動性や賃貸市場での貸しやすさなどがあるので投資対象の観点からも資産価値が高いと言われています。

現在、新築マンションは販売価格の上昇が続いています。不動産経済研究所の調査では、2021年に首都圏で発売された新築分譲マンションの平均価格は6260万円で、前年を2.9%上回って最高値を更新しました。平均価格は3年連続で上昇しました。㎡単価の平均は9年連続でアップしています。用地価格と建築コストの上昇に加えて、住宅ローン金利の低水準と共働き世帯が増えたことによる世帯年収の増加で購買力が高まっていることや供給戸数の減少などが価格の上昇につながっています。昨今ではロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響で世界的にエネルギーコストが上昇していることや円安の進行で輸入部資材の価格が高騰していることもあり、新築マンションの価格上昇圧力が一段と高まっています。

新築マンションに比べて割安な価格で販売されるリノベーションマンションの価格競争力の高さも注目されます。買取再販事業者が中古マンションを取得する動きも活発化していますから、所有している中古マンションを事業者に売却するという選択肢も増えそうです。一般消費者に売却する場合は内見会を行ったりしなければならず、成約に至る時期も読めませんが、事業者への売却は売り主側のタイミングで行えるという便利な面があります。
購入だけではなく、売却の面からもリノベーションマンションに着目する意義があるのではないでしょうか。

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