2019年度グッドデザイン賞受賞ザ・パークハウス 桜坂サンリヤン
2019年10月02日
「エリアの安全」「自然の保全」の両立を実現するための3つのアプローチ

福岡市の中心部・天神から2㎞圏に位置し、約86.8ヘクタールもの照葉樹林帯が連続している本計画地。
敷地内には約40mの高低差があり、土砂災害特別警戒区域レッドゾーンに該当(以下、区域指定)していた。
近年、全国的に大規模な自然災害が相次ぐなか、計画に際し区域指定解除は大きな意義があったが、一方で、区域指定解除を目指した一般的な擁壁造成手法には、都市に残された貴重な生態系に悪影響を及ぼす恐れがある。
そこで本計画においては、『周辺エリアの安全』と『自然本来の保全』を両立することが切り口となった。
1.エリア貢献
一般的な擁壁造成手法では造成範囲が大きくなり、自然への負荷が拡大する。
福岡県初の、建物基礎部分で造成法面を支える手法により、自然への負荷を最小限にし、区域指定解除を実現。
■一般的な擁壁造成手法
掘削量・範囲が多くなり、生態系への負荷が拡大。
建物と自然が視覚上・利用上分断される。

■新たに構築した造成手法
掘削量・範囲を縮小し、生態系の保護に配慮。
建物と自然の視覚上・利用上の連続性が保たれる。


南公園の極相林が建物や提供公園の足元まで連続

保全された南公園の森が眼下に広がる居住空間を実現
2.住環境貢献
森の環境を最大限に享受するためには、安全を担保できる限りにおいて自然の地山を残し、手を加える範囲は最小限にする必要があった。そのため、自然地形の平場を利用し保全林内に設けたデッキテラス、林縁部に設けた日本庭園や屋外広場、提供公園という4つの拠点を計画し、それを有機的につなぐ意図で建物内の共用空間を配置した。
多層にまたがる立体的な回遊性は、より身近に自然を享受する為の利便性を高めている。

① オープンスペースに囲まれた街への玄関
(±0.0)

② 開放的にまちへとつながるエントランス
(±0.0)

③各棟と屋外空間を緑で結ぶプロムナード
(+17.6)

④日本庭園へと連続する半屋外テラス空間
(+17.6)

⑤建物6階部分に設けられた日本庭園の景
(+17.0)

⑥二つの庭園をつなげる斜面庭園の散策コース
(+19.2)

⑦林縁の庭園にアクティビティが生まれた
(+26.5)

⑧林床を整備し、森を日常生活の一部に
(+30.0)

⑨極相林を舞台に自然観察会を展開する
(+37.0)

⑩樹齢100年近いクスとウッドデッキテラス
(+24.7)

⑪林縁の広がりを提供公園として地域開放
(+19.7)

⑫自然地形を利用した遊具は子供達を虜に
(+16.7)
※かっこ内の数字はエントランスを基準とした高低差。
3.地域環境貢献
長期の調査に基づき、生態系に配慮しながら住まい手が親しみやすい森を計画。
暗く未利用であった森が、木漏れ日に満ちた安全で明るい空間に。
日常的に森を利用し親しむ生活や、より自然を知るためのコミュニティイベントを通して、
身近に存在する自然環境・生態系への理解が浸透。
住まい手自らが地域環境を保全するという主体性が醸成され、『地域環境への貢献』の輪が広がってゆく。

森の中の時間をゆっくり味わえるウッドデッキテラス

第一回の自然観察会には17世帯40名が参加した
審査員の評価コメント
土砂災害危険地域に指定される自然斜面地に、ここに喰い込むように集合住宅のボリュームを建てることで、基礎躯体が崩落を保護する役割をなすことで地域の安全性を高めることに寄与している。
一般に忌諱されがちな集合住宅の巨大さを積極的な価値へと転換した点には大きな価値がある。
しかし何より、斜面地形に喰い込むことで、各階が本物の自然に接続し、内外をまたいだワイルドでストロークの長いシークエンスが展開しているのは、これはなかなか得難い生活経験であり、高く評価したい。
大変楽しい生活が想像でき、戸建では得られない価値が生み出されている。