ライフステージから見る住まいの買い時とは?「今買うか、5年後か」~マネーの専門家が検証~

ライフステージから見る住まいの買い時とは?
「今買うか、5年後か」~マネーの専門家が検証~

[住まい選びの基礎知識]

2019年03月26日

住まいを購入する動機は、結婚・出産・子どもの入学などのライフイベントがきっかけになることが多いでしょう。資金計画を立てる上では、住宅価格や住宅ローン金利の動きも気になるところです。そのため「マイホームが欲しい。でも、いま買っていいの?」と、迷うかもしれません。ライフプランを踏まえた適切なタイミングをどう見極めるべきか、ファイナンシャルプランナー(FP)の豊田眞弓さんがアドバイスします。

"人生における買い時"はいつ?

実際に購入している人たちは、何歳頃に、どのライフステージの時に契約しているケースが多いのでしょうか。首都圏の新築マンション購入者の平均像を示した図1をご覧ください。

図1-1.新築マンション購入者の年齢(首都圏)

リクルート住まいカンパニー『2017年首都圏新築マンション契約者動向調査』を基に作成」。図1-2も同様

まず、年齢については、平均で38.6歳です。年齢層でいうと、30~34歳が全体の3分の1近く(30.8%)占め、35~39歳を合わせた30代全体で過半数(54.4%)を超えます。20代で購入する人も、50歳以上(13.2%)に匹敵するくらいの割合(12.1%)です。

図1-2.新築マンション購入者のライフステージ(首都圏)

ライフステージ別では、「子どもあり」の子育てファミリーが45.4%で一番多くなっています。さらに、子どもが小学校に入学する前か後か(就学前・就学後)で分けると、「夫婦+子(就学前)」(34.4%)が「夫婦+子(就学後)」(11%)の3倍以上も多い状況です。「小学校に上がったら個室を与えたい」「通わせたい学校の近くに住み替えたい」などの理由から、入学前に購入したいと考える人が多いのかもしれません。「夫婦のみ」(32.4%)も「夫婦+子(就学前)」に近い割合です。

ファイナンシャルプランナーの豊田さんは、こう指摘します。
「教育費は人生の後半にピークが来ます。しかも50代になると、自分たちの老後資金の準備が必要になる一方で、親の介護のための休職や転職により収入が減るケースや、時短(短時間勤務)になるケースもあるでしょう。そういう意味では、住宅は早めに購入して住宅ローンを早めに返してしまったほうが、将来の余力が生まれるでしょう」

また、ライフステージと住まいの購入タイミングについては、次の点に注意が必要です。
「結婚を機に20代で住まいを購入する人も増えています。20代は収入がまだ低いことから、新居を探すにあたって、双方の親からマイホーム購入の資金援助を受けやすい傾向もあるようです。無理なく買えるなら、良いタイミングの一つといえるでしょう。

ただ、お子さんを持つ予定があるなら、"保活(※)"や将来の学校の進路(私立か公立か、どの学校かなど)を考えてエリアを選ぶことが大切。2人で住宅ローンを組む場合は、夫婦それぞれの長期的な働き方も踏まえて資金計画を立てておく必要があります。ずっとダブルインカムを目指すなら、実家の手を借りやすい、通勤に時間がかかりすぎないなど、働き続けられる環境にあるかも考えて選びたいところですね。お子さんが生まれて、産休・育休が終わってからのほうが、資金を含めたライフプランを描きやすくなるでしょう」(豊田さん)

保活:子どもを保育園に入れる活動のこと。産休・育休などの会社の子育て支援制度や地域による行政サポートの内容に差があり、保育園の入りやすさが異なるため、エリア選びが大切。

そういう意味では、世帯の収入状況や子育て環境への考え方が固まって来る頃(図1-2 の「夫婦+子(就学前)」の段階)が、ライフステージにおける良いタイミングといえるかもしれません。

■ライフステージと市場のタイミングが合わない時、どう考えればいい?

購入のタイミングを判断する上で、価格動向も大きな要素です。多くの人は「なるべく住宅価格が低いときに購入したい」「最安値で買いたい」と思うでしょう。とはいえ、住宅価格が底を打つベストな時期を見極めることはできるのでしょうか。

図2.新築マンション価格の長期推移(首都圏平均価格)

不動産経済研究所のデータを基に作成

図2は過去40年間の新築価格の推移を示しています。大きなピークとボトムの間に、小さな山と谷があり、その幅も期間も一定していません。長い期間に渡って横ばいに近い時期もありました。どこがピークでどこがボトムなのかは、何年も後から振り返ってみないと判断できないのです。まして、この先も価格が上がるのか、横ばいになるのか、あるいは下がるのか、下がるとしたらどのくらい下がるのかなど、ほとんど予想できないといえるでしょう。

つまり、価格相場が底を打つ時を狙って購入するのは至難の業といえます。現実には、ライフステージ上のタイミングと市況のタイミングは一致しない人のほうが多いでしょう。「価格が下がるかもしれない」と思いながら、何年も待つうちに買いそびれてしまうという話もよく聞きます。

「買うか借りるかでいえば、所有していたほうがトータルの住宅コストは低くなると、個人的には考えます。購入する時期が遅くなるほど、資産形成に結びつかない家賃の部分が多くなるからです。現在、物件価格は高くなっていますが、住宅ローン金利が低いので買える人も少なくありません。この先に価格が下がったとしても、その時に金利が上がっていたら、それぞれの良し悪しが相殺されてしまうでしょう。

価格や金利などの外的要因は自分でコントロールできない以上、ライフプランを優先して考えるほうが賢明です。もちろん、無理して購入することはお勧めできません。自分が購入したいと思った時点で、背伸びをせず、将来の余力が残せるような予算を組んで買えるなら、問題ないのではないでしょうか」(豊田さん)

■購入が5年遅れると、ライフプランはどう変わる?

購入時期がずれることによって、ライフプランがどう変わるかを検証してみましょう。35歳のAさん世帯が、今すぐに購入した場合と、価格が下がるのを待って5年後に購入した場合をシミュレーションしました。(試算:豊田さん)

<試算の主な条件>

世帯年収:
額面1,000万円(定年まで年0.5%ずつ増加)
夫(35歳)/
年収700万円(手取り516万円)。退職金1,700万円、60~65歳:手取り300万円、66歳~:200万円+年金
妻(33歳)/
年収300万円(手取り232万円)、60~65歳:手取り100万円、65歳~:年金
子ども:5歳、3歳(進路は高校まで公立)
当初貯金1,000万円(その後年1%で運用)

●パターン1/今すぐ購入

購入物件:新築マンション5,000万円、頭金500万円+諸費用150万円、住宅ローン:35年固定1.4%

図3-1.すぐに住宅購入した場合のライフプラン

住宅ローン返済が終わった後、収入と支出が均衡して、貯蓄が減らない時期がしばらく続きます。約50年後の84歳時点で貯金残高が1,400万円以上残ります。

●パターン2/5年後に購入(価格が1割ダウン、金利が0.6%アップ)

当初5年間:賃貸住宅で家賃16万円/月、2年に一度更新料1ヶ月分。5年間合計992万円
購入物件:新築マンション4,500万円、頭金450万円+諸費用135万円、住宅ローン:35年固定2.0%

図3-2.5年後に住宅購入した場合のライフプラン

定年後、貯蓄残高は右肩下がりで減り続け、84歳時点でパターン1の半分程度の734万円まで減ってしまいます。パターン1との違いが出た理由は以下の通りです。

①高収入の期間が違う
最大のポイントは、住宅を購入してから定年までの高収入を得られる期間の違い。すぐ購入したパターン1はその期間が25年間あるのに対して、5年後に購入するパターン2は20年と5年間少なくなっている。購入時期が遅れるほど、この差が大きくなる可能性が高い。
②定年後の住宅ローン返済期間が長い
パターン2は、定年後も住宅ローンを払い続けなければならない返済期間がパターン1より5年間多くなる。
③5年間の家賃負担が価格下落分を上回る
購入価格は5年間で1割(500万円)下がっているが、その間、賃貸住宅に住んでいた家賃の支払いが値下がり分の2倍近く(992万円)に達する。
④金利上昇が価格下落を相殺
購入価格が下がった一方で、金利が上昇したため。なお、金利が上がらなかった場合、84歳時点の貯蓄残高が1,372万円になるものの、パターン1よりは少ない。逆に金利が1.3%上昇して2.7%になっていると、貯蓄残高はマイナスに転落する。

この試算は、一定の条件設定に基づく参考例の一つです。物件価格や金利水準によって数値に違いは出てきますが、購入時期が5年間遅れることによって老後の生活にしわ寄せがくるという傾向は変わらないでしょう。

■人生における購入のタイミングを逃すと…

購入時期が後ろにずれることによる影響は他にもあります。前項のシミュレーションでは、Aさんのお子さんは当初5歳と3歳でした。子どもが小学校時代の5~6年間は、反抗期前に親子が仲良く過ごせる「(幸せな)黄金期」とも言われるそうです。またスポーツ医学の専門家は「5~12歳(幼稚園の年長~小学校6年生)」を、子どもの運動能力の発達が著しくなる「ゴールデンエイジ」と呼んでいます。

できれば、そんな"黄金期"に、腰を落ち着けてマイホームで育てたいと思うのではないでしょうか。しかし、購入時期が5~6年遅れると、第一子は中学校に上がってしまうわけです。子育てのコア期間(小中高校)である10年前後のうち、半分以上が過ぎてしまいます。家族それぞれが一番良い時期に良い環境で過ごせるタイミング、それが"人生の買い時"といえるかもしれません。

豊田眞弓さん

「人生100年を想定するなら、家を買うのが1回で終わることはないと思います。最低1回か2回は買い換えるか建て替えるでしょう。1度きりで理想を実現しようと思う必要はありません。購入しようと思ったとき、価格が高い時期だったら、無理して夢を追わずに身の丈に合った規模、地域で購入しておくという選択もあります。

時間がたてば、家族の状況や住まいに対する要望も変わってきますから、またタイミングを見て住み替えながら、理想に近づけて行けばいいでしょう。ご家族の意見がまとまって今がチャンスと思った時が"買い時"の一つであることは間違いありません」(豊田さん)

希望エリアによっても、無理なく購入できるかどうかが変わってきます。1ヶ所にこだわらず、さまざまなエリアで検討してみてはいかがでしょうか。

豊田眞弓さんプロフィール

豊田眞弓さん

FPラウンジ代表、ファイナンシャルプランナー、住宅ローンアドバイザー、DCプランナー2級、相続診断士、終活アドバイザー、ハッピーエンディングプランナー
早稲田大学政治経済学部卒。経営誌や経済誌のライターを経て、1994年より独立系FPとして活動。現在、個人相談業務を行うほか、講演などでも活躍。新聞や雑誌、サイトなどに連載を含む多数のマネーコラムを寄稿、雑誌などでは記事の監修やアドバイスなども行う。『住宅ローンは55歳までに返しなさい!』(アニモ出版)、『離婚を考えたときにまず読む本』(日本経済新聞出版社) など著書多数。

PHOTO:豊島正直
TEXT:木村元紀

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