2022年、マンション価格の動向を専門家が読み解く

2022年、マンション価格の動向を専門家が読み解く

[住まい選びの基礎知識]

2022年02月08日

新型コロナ禍の影響が長引くなかで、不動産市場は旺盛な住宅需要に支えられて堅調な動きを示しています。
今回は、新築マンション市場にスポットを当て、2021年の振り返りと2022年の展望を市場調査のプロである井出武さんにうかがいました。建築費や金利の先行きと併せて紹介します。

新築マンションの供給量が2019年レベルに回復、販売も好調

初めに2021年の動きを振り返ってみましょう。
不動産経済研究所の調査では、2021年に首都圏で分譲された新築マンションは、前年比23.5%増の3万3636戸になりました。

「2020年春に最初の新型コロナウイルス・パンデミックが起きてから、何度も流行の波が訪れましたが、新築マンション市況の調子は上向いています。
年間ベースで見ると、供給量は2020年に2万戸台後半まで落ち込みましたが、2021年はコロナ前の2019年の状態と同レベルの3万戸台前半まで回復し、ほぼ正常時に戻りつつあるといえるでしょう」(井出さん)

売れ行き状況を示す指標の1つである初月契約率も、おおむね70%台を維持しています。好調な売れ行きの背景には、購入検討者の意識がありそうです。2021年の上半期に住宅の購入や建築を検討した人に対して、新型コロナ禍が住まい探しにどのような影響を与えたかを調査したデータがあります(図1)。

「影響がない」が約半分、購入や建築の後押しになった「促進」が3割強、検討の休止や中止などの「抑制」は2割に達していません。後ろ向きの姿勢は少数派で、旺盛な住宅取得意欲が続いていることがうかがえます。

「特に2021年前半の需要の伸びが大きかったと思います。ワクチン接種が始まり、コロナがある程度は終息するという展望のもとに、購入を進める方の動きが盛んでした」(井出さん)

図1.コロナ禍拡大の住まい探しへの影響

新築マンション価格は上昇が続く。やっぱり都心は強かった

では、2021年の新築マンション価格はどう動いたのでしょうか。

「首都圏の平均価格はずっと上昇が続き、下がる気配がありません。東京23区内の物件数が減ったときに平均値が一時的に押し下げられる時期もありましたが、同じエリアのマンションが価格を下げていく状況ではないといえます」(井出さん)

不動産経済研究所の調査では、2021年の首都圏における新築マンションの平均価格は6260万円。過去最高値だった1990年の6123万円を更新しました。

ただし、全体的に値上がりしているわけではありません。地域別の価格推移を示した図2をご覧ください。
新型コロナ禍後に価格が明らかな上昇基調にあるのは東京23区内のみ。東京多摩地区は横ばいに近い状態、横浜市はやや下がり気味になっています。東京23区内、特に都心部の強みが再認識されているというのが井出さんの指摘です。

図2.新築マンションの平均坪単価推移

「新型コロナ禍で、自分や家族の命を守りたいという思いが強まったり自宅の滞在時間が長くなったりしたわけですが、病院へのアクセス、買い物や飲食店の選択肢の豊富さを考えたときに、やっぱり環境の整った都心に住んだほうが有利だと実感した人が多かったのではないでしょうか。
在宅ワークが普及すると、広いマンションを求めて郊外に住み替える人が増えるといわれましたが、そうした動きもあまり広がっていません。職住近接や生活利便性を求めるという構図自体は普遍的です。
都心部は投資家や富裕層が支えているマーケットでもありますから、一極集中は強まると言えるでしょう」(井出さん)

緑豊かな都心の街並み(ザ・パークハウス 広尾羽澤)

緑豊かな都心の街並み(ザ・パークハウス 広尾羽澤)

中古マンション価格は、広いタイプほど上昇率が高い

新築マンション以上に価格が上昇しているのが中古マンションです。

「現在、不動産市場は全体的には品不足の状態ですが、特に中古マンションに、その傾向が強く表れています。個人の売主は、新型コロナ禍で先行きがわからないという意識から、かなり慎重に構えているせいか、売却活動への動きが鈍いようです。購入希望者が多いのに対して供給量が相対的に少ないため、価格に上昇圧力がかかったと言えます」(井出さん)

新築マンションでは地域別の動きに変化がありましたが、中古マンションでは面積帯別の動きに特徴があります。30㎡未満の投資用ワンルームマンションを除くと、全般的に中古マンション価格は上がっていますが、なかでも70㎡以上の値上がりが顕著です(図3参照)。

図3.専有面積別・中古マンション坪単価推移

「中古マンション価格は、地域に関わらず、広めのタイプが上昇しています。都心から郊外へ広さを求めて移っているのではなく、各エリア内で広い面積の住戸を求めているのです。新築マンションの平均面積が60㎡台半ばに止まっているため、中古では70㎡以上の広さに対するニーズが顕在化したのでしょう」(井出さん)

新築マンション価格は頭打ち? 建築費や環境問題の影響は?

では、2022年の新築マンション市場はどう展開していくのでしょうか。

「既に天井感が出ていると思われます。理由は2つです。
1つは、都心部のマンション価格上昇を支えていた投資家や富裕層が、2021年後半から慎重になり、前半ほどの活発さが弱まってきた点です。東京オリンピックのさなかに第5波が拡大した後、4回目の緊急事態宣言が10月で解除されれば元の動きに戻ると見ていました。ところが、11月以降も彼らの購入に向けた動きは弱いままです。ここへ来て、新たな変異株のオミクロンも出てきましたから、投資家や富裕層の様子見状態はしばらく続くでしょう。

2つ目は、マイホームとして購入する実需層の動きです。所得が伸び悩む中で高値圏に達しており、これ以上に価格が上昇してしまうと、購入能力を超えてしまうのではないかと懸念しています」(井出さん)

かといって値下がりする可能性も見えにくい状況です。特に建築費の動きが気になります。図4の通り、東京オリンピック後も工事原価の上昇傾向は変わりません。

図4.構造別・工事原価の推移(月次の指数)

建築専門誌によると、米中の経済活動が活発化して住宅需要が高まったのに加えて、コロナ禍による物流の停滞、配送費の高騰などにより、資材価格の値上がりや品不足が深刻化しているようです。国内の住宅用資材や住宅設備機器のメーカーは、2022年4月から1~2割の値上げを相次いで発表しています。

これに輪をかけているのが、昨今の気候変動問題への対応です。
「2030年度に温暖化ガスを2013年度比で43%削減、2050年にカーボンニュートラル(温暖化ガス排出量実質ゼロ)を目指す」という国際的なトレンドの中、住宅の環境性能を高める取り組みが一段と高まるのは間違いありません。ニッセイ基礎研究所の論考によると、環境性能が1ランク高くなると新築マンション価格は4.7%上昇するそうです(※)。

ニッセイ基礎研究所「『環境性能評価」が新築マンション価格に及ぼす影響」2021年11月11日。「環境性能」のランクとは自治体等で実施している建築物環境性能表示制度の結果に基づく。

環境性能の高い住宅のなかでも注目を集めているのが「ZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)」です。
高い断熱性と高効率設備の採用による省エネ性能向上、太陽光発電などによる創エネで、消費エネルギーを差し引きゼロにする住まいを指します。ZEHは通称「ゼッチ」と呼ばれ、マンションの場合は「ZEH‐M(ゼッチ・マンション)」。図5のように、4つの種類に分かれています。

図5.ZEH-M(ゼッチ・マンション)の種類と内容

マンションにもZEHが普及すると、建築コストの上昇圧力が高まるでしょう。以上の点から考えて、新築マンション価格が値下がりしにくい状況にあることは間違いありません。

住宅ローン減税は条件見直しで延長。低金利も続く?

最後に、今後の購入環境に関わる税制と金融情勢についても触れておきましょう。まず、2022年度税制改正では、マイホーム購入者にとって恩恵の大きい「住宅ローン減税」の適用期限延長が、決まりました(与党税制改正大綱を基に記述。正式な決定は国会通過後)。

住宅ローン減税は、マイホームの購入で借り入れたローン残高の一定割合を所得税などから控除する特例です。
2021年で終了予定だった期限が2025年まで4年間延長され、控除率が1%から0.7%へ縮小される一方で、控除期間(本則)は10年から13年に延長されました(新築住宅の場合。中古住宅は適用条件、控除枠が異なる点に注意。)。

「住宅ローン減税の条件変更によって、中堅所得の実需層には悪影響はありません。所得要件が3000万円から2000万円に縮小したので、富裕層にはややマイナスになるでしょう」(井出さん)

図6.新築マンションの住宅ローン減税の内容

今回の税制改正では、「住宅ローン減税」の中に、従来になかったZEHに対する優遇枠が新たに設けられました。
図6の「その他の住宅」に比べると、ZEH-M (ゼッチ・マンション)の場合は100万円以上も控除額が多くなる可能性があります。
また、環境省と経済産業省の連携事業として、ZEH-M(ゼッチ・マンション)に対する補助制度が、2022年度予算に盛り込まれました。税制と補助制度の両面で、ZEH-Mの取得には追い風になりそうです。

ザ・パークハウス 新浦安マリンヴィラ

ザ・パークハウス 新浦安マリンヴィラ

グッドデザイン賞も受賞した、ZEH-M Readyによる新しいエネルギーマネジメントシステム「ソレイユ」が初めて採用されたマンション。
太陽光発電を一括で運用し、太陽光エネルギーを各住戸の給油器でお湯に変換することで、蓄電池の代わりとしている。

詳細を見る
「ザ・パークハウス 新浦安マリンヴィラ」の詳細は物件サイトをご確認ください。
なお、販売済みでご覧になれない場合もございます。

この他、住宅購入に影響する要素としては、金利の動きも気になるところです。

「黒田総裁の任期中は日銀が政策金利を変えることは当面ないでしょう。ただ、欧米で進むインフレに対して金融引き締めの動きが先進諸国で強まっているだけに、日本でも金利の先高感が頭をもたげてします」(井出さん)

以上の点を踏まえると、2022年は新築マンションの購入検討者にとって、どんな年になるのでしょうか。

「価格が上昇も下降もしない落ち着いた状態になるとすれば、売り買いしやすい環境です。
現在は、まだ低水準の固定金利が選べる時期でもあります。新型コロナ禍の影響の少ない業界の方にとっては、良いタイミングと言えるかもしれません」(井出さん)

住まい探しを始めるきっかけは、結婚や出産などの人生の大きなイベントだったり、居住環境の不満解消だったり、さまざまでしょう。
今、購入意欲を後押しする理由があるなら、2022年はその行動を起こすのに悪くない年になるのではないでしょうか。

<プロフィール>

井出武さん

井出武さん

1964年東京生まれ。
1989年マンションの業界団体に入社、以降不動産市場の調査・分析、団体活動に従事、2001年株式会社東京カンテイ入社、現在は市場調査部上席主任研究員。
不動産マーケットの調査・研究、講演業務等を行う。

TEXT:木村元紀
PHOTO:村山雄一

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