2023年の新築マンション市場を展望。
市場調査のプロが「今、買うべきか」を検証
2023年02月02日
2022年はウクライナ紛争から世界的なインフレへ、そして英米の金融引き締め、急激な円安など激動の1年でした。
今なおコロナ禍が収まらない中、マンション市場にかげりが見えてきたという指摘があるものの、実際はどうだったのでしょうか。マンション市場調査のプロ、東京カンテイの井出武さんに、2022年の市場を踏まえながら2023年の展望について伺いました。
新築マンションの平均価格が低下! でも実質的な値下がりではない
国内外で政治的、経済的な混乱が続いている中で、マンション市場はどうだったのでしょうか。まずは、2022年の新築マンションの動きについて振り返っていただきました(図1参照)。
「首都圏で分譲された新築マンション価格は、年間を通した平均値で見ると、2021年よりも低い水準になると見られます。2021年の年間平均坪単価が337万円なのに対して、2022年は11月までの集計で329万円に止まっているからです。四半期別の推移を見ても、首都圏平均では2021年7~9月期の363万円がこの3年間のピークでした。その後は右肩下がりになり、2022年7~9月期から再び上昇に転じたものの、前年の水準には達していません。ただし、首都圏全体の平均データから、新築マンションの相場が実質的に値下がりしたと判断するのは早計です」(井出さん。以下コメントは全て同様)
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- ヒアリングは2022年12月12日。データは専有面積が30㎡未満(ワンルームタイプ)の住戸は除いて集計(以下同様)
実質的な値下がりとは言えない理由は2つあります。まず第1に、図2に表れているように、供給立地が東京23区の周辺部にシフトしていることです。
「過去10年間、東京23区の供給シェアはおおむね45~49%を占めていました。
しかし、2022年は42%台に急落しています。その一方で、千葉県と埼玉県が増えました。また同じ23区内でも、都心部の超高額物件の分譲が大幅に減った上に、南西部よりも相対的に価格水準の低い北東部の供給が増えています。
つまり、価格水準の高い東京都心や23区南西部のシェアが減った結果、全体の平均値としては低下したわけです」
価格が下がっているとは言えない2つ目の理由は、地域別の推移を見てみるとわかります。
「東京23区は価格の凸凹が大きくなっていますが、これは周辺相場と異なる大型物件が出たときに起こります。例えば、2022年4~6月期に価格がガクンと落ち込みましたが、これは同時期に分譲された大規模開発プロジェクトのHARUMI FLAGの影響です。
オリンピック選手村跡地という特別な事情もあり、23区の相場が坪400万円台の時期に、坪300万円程度で多数の住戸が販売されました。これが平均値を押し下げたわけです。同じエリア、同じグレードで分譲された物件はほとんど値下がりしていません。東京多摩地区やさいたま市では値上がりしています」
東京周辺への立地シフトは、コロナ禍の影響?
前項で立地の郊外化が進んだと指摘しましたが、これは、コロナ禍で在宅ワークが増え、広めの郊外マンションを求めるニーズが高まったからでしょうか。
「コロナ禍の影響とは言えないのは明らかでしょう。
千葉県や埼玉県の供給が増えたといっても、分譲されるエリアは限られています。千葉方面は総武線沿線の市川市や船橋市、埼玉方面は京浜東北線沿線のさいたま市大宮区と浦和区、あるいは川口市での分譲が圧倒的に多い。どちらも東京駅に直結する沿線ですから、都心通勤に便利な場所を希望している人向けと言えます。ニーズの変化で郊外化したなら、もっと幅広いエリアに面的に広がっているはずです。
今回の立地シフトは、マンション価格が高騰した結果、購入可能なエリアが都心から郊外へ玉突き現象で押し出されたからだと考えられます 」
価格が高止まり、あるいは少し値上がりする中で、新築マンションの売れ行きがダウンしなかったのでしょうか。
「端的に言えば、順調でしたね。コロナ禍が始まった2020年は月によって分譲戸数が大きく増減し、購入者の動きもフリーズした時期がありました。しかし、2022年は毎月2000~3000戸ぐらい安定して供給され、販売状況も好調だったと思います」
新型コロナ感染者の第6波、第7波があったにもかかわらず、購入者の反響は減っていません。
「デジタル技術を活用したウェブ中心の広告や情報提供が充実し、モデルルームは完全予約制で見学者が重複しないように配慮されるなど、コロナ禍でもマンション探しの行動を自粛する兆候はなく、完全に“ウィズ・コロナ”に移行できた年と言えるかもしれません」
また、購入者層の変化も見られました。
「中古マンション価格が値上がりしていることもあり、新築マンションを投資家目線で購入する人が、以前よりも増えた印象です。株価が不安定なため、安定資産としての不動産に目が向いているのでしょう。
新型コロナ禍で停滞していたインバウンドもだいぶ戻ってきました。円安が急激に進行したため、外国の方にとっては価格の値上がりを補ってあまりあるほど割安感が増して購入意欲が高まったのでしょう。渡航制限が少しずつ緩和され、海外から現物を見たいと訪れる購入希望者の動きも活発化しています」
中古マンション価格の値上がりに天井感
新築マンション以上に大きく値上がりしてきたのが中古マンションです。2022年の動きはどうだったのでしょうか。
「首都圏における中古マンションの価格は、2022年の後半から明らかに上昇傾向が鈍ってきました。成約件数も減り、在庫も増えていますので、そろそろ天井感が出て来たと考えています。理由は、新築価格との差が縮小してきたからです。特に築2~3年の新しい中古マンションの中には新築より高い物件も珍しくありません。こうしたバランスを欠いた状況には調整が入る可能性はあるでしょう」
図4は、中古マンションの売出事例価格の推移を示したグラフです。中古価格は築年によってバラツキがあるため、築10年の物件に絞って集計しました。
これを見ると、いずれのエリアも2022年の半ば頃までに上昇傾向が頭打ちになり、横ばいからやや下降気味になっています。ただ、このまま値下がり傾向に転じるとまでは言えません。新築マンション価格に追随して動くのではないでしょうか。
2023年、新築マンション価格はどうなるか? 建築費の影響は?
以上の点を踏まえると、2023年以降の新築マンション価格はどうなるのでしょうか。
「一昨年は、このまま高価格が続くと需要が減り、値下がりに転じる懸念があると考えていました。しかし、2022年の動きを見ると現在の価格水準でも順調に売れています。今のところ、2023年以降に価格が下がる材料は見当たりません。
実は、価格が下がりにくい理由はもう1つあります。2022年に着工しながら分譲されなかった都心部のハイグレードマンションがたくさんあり、2023年から販売開始される大型プロジェクトが目白押しだからです。
いずれも専有面積が100m2以上と広く、プランも優れています。例えば、港区の三田や浜松町で計画されているマンションは注目です。価格もハイクラスになりますから、平均価格を押し上げる要因になるでしょう」
建築費の影響はどうでしょうか(図5参照)。
「2021年から既に上昇し始めていますが、2022年にロシアのウクライナ侵攻があって以降、さらに急上昇しました。マンションの場合、建築費の動きが分譲価格に反映されるまでには1~2年のタイムラグがありますから、この影響は、おそらく2023~24年に表れて来るでしょう」
購入能力に影響する金利や税制の動きは?
建築費と並んで、購入者にとって気になるのは住宅ローンの金利動向でしょう。
「金融緩和を維持する姿勢を続けていた日銀の黒田総裁が、2022年の年の瀬も押し迫った12月20日に、予想外の実質利上げに踏み切りました。金融機関も敏感に反応し、この1月から住宅ローンの10年固定金利がやや上昇しました。ただ、このまま金利上昇に転じるかどうかは、まだ未知数です。
また、4月に黒田総裁の任期が終わり新しい総裁に変わるのはビッグイベントです。次期総裁が一気に利上げに踏み切るとは思えませんが、欧米との金利差が著しく広がり、円安圧力が強まっていますから、是正すべきという論調は高まるはずです。国内の物価上昇率の高まりにも対応策を打つ必要があります。先行き不透明な中で、黒田総裁が交代する前の3月までに購入に動いたほうが良いと考える人も増えるでしょう」
ちなみに、2022年12月16日に公表された2023年度税制改正大綱には、住宅税制については大きな変化は出ていません。ただし、タワーマンションを相続税の節税対策に活用する風潮に対して適正化する旨の記述が、検討課題の1つに盛り込まれました。
「2024年度の税制改正で、いわゆる“タワマン節税”にメスが入る可能性も指摘されています。資産家や富裕層の間では、こうした規制が強まる前に購入する動きが強まるかもしれません」
2023年は、2022年以上に不動産の動きが活発になる年になりそうです。
<プロフィール>
井出武さん
1964年東京生まれ。
1989年マンションの業界団体に入社、以降不動産市場の調査・分析、団体活動に従事、2001年株式会社東京カンテイ入社、現在は市場調査部上席主任研究員。
不動産マーケットの調査・研究、講演業務等を行う。
TEXT:木村元紀
PHOTO:豊島正直