ザ・パークハウス ストーリーザ・パークハウス 戸塚
2016年03月17日
ここで取り上げるのは、地域の課題を解決しながら住まいをつくるという、都市型集合住宅の新しいあり方にチャレンジした物件です。
横浜市が実施した全国初の試み「公民連携による課題解決型公募モデル事業」において採択され、課題解決に貢献した「ザ・パークハウス 戸塚」をご紹介します。
街の課題を解決するマンションづくり
横浜市は、戸塚区の公有地を有効活用するために、事業者からアイデアを公募しました。各事業者は、「横浜市の募集要綱に沿うこと」と、「事業として成立すること」を両立するプランを練り、横浜市に提案しました。
そして7つの事業者が出した提案の中から、三菱地所レジデンスが選ばれたのです。
では、三菱地所レジデンスの提案とは、いかなるものだったのでしょう。私たちは、この街をよりよくするには、次の3つの課題を解決することが大事だと考えました。
(1) 待機児童ゼロに貢献すること。
(2) 内外をつなぐコミュニティ・防災空間を創出すること。
(3) 地域の多世代間交流を実現すること。
100名規模の保育施設が実現した
横浜市は、待機児童を減らす政策に積極的に取り組んでいます。そこから、共同住宅を建設するにあたって、保育施設を併設するアイデアが生まれました。
ここで問題となるのが、保育施設の運営をだれにお願いするかでした。担当者の頭に浮かんだのは、以前に横浜市の別の物件でお世話になった方の「あそこの保育園の運営団体は素晴らしい」という言葉です。
早速訪ねてみると、保育士の方は礼儀正しく、子どもたちはみんな元気。運営者にお会いすると、今後の保育のあり方などについて熱意あるお話をうかがうことができました。また、給食をケータリングする保育施設が多いなか、こちらでは必ず調理室を設け、そこで調理し提供するなど食育にも力を入れていました。
ポイントとなったのは、この運営団体が保育施設として使う区画を購入してくださったことです。「賃貸でよければ保育施設を運営したい」という方もいらっしゃいましたが、安定的な運営と事業の永続性を考えると、購入していただくのがより良いと考えました。
こうして、広い園庭を備えた、定員100名を超える保育施設の実現の目途がたちました。さらには、行政の期待に応えるだけでなく、周辺にお住まいの方を訪ねて、この街が抱える課題をうかがいました。すると、「学童保育から児童があふれている」という声を耳にしたのです。そこで、学童保育施設も併設することを決めました。
地域に開かれた防災広場
横浜市に提案するプランを練っていた当時は、2011年の東日本大震災の直後だったこともあり、防災への関心がひときわ高い時期でした。そこで、共同住宅の住民の方はもちろん、周辺にお住まいの方のお役に立てるような防災空間をつくることに決めました。
北側の保育施設と南側のエントランスをつなぐ中庭空間がその位置づけとなります。具体的には、集会室と中庭が隣り合った一画が、災害時の防災空間として機能します。ウッドデッキで覆われたこのスペースは、通常は憩いの空間として使われますが、災害時には周辺の方を受け入れることもできます。
食料、飲料水などの非常食や、かまどベンチ、発電機といった防災アイテムを格納する防災倉庫を設置しているほか、防災井戸も備えています。
取り組みが評価され、グッドデザイン賞を受賞
集合住宅が地域に溶け込むためには、住民同士はもちろん、周辺にお住まいの方との交流が深められるようなソフトとハードが重要であると考えました。
ただし、世代を超えて交流を深めることは簡単ではありません。そこで、横浜市内の別の集合住宅で、住民間の交流の活性化に成功した運営会社から、地域のコミュニティづくりに熱心なNPO団体を紹介していただきました。こうして、共同住宅のコミュニティスペースを地域のNPO団体が運営するという、新しい取り組みが実現したのです。
いつ行ってもだれかがいるカフェ、定期的なワンコインでのランチ販売、そして各種イベント開催など、年齢やマンションの垣根を越えて、コミュニケーションを深めていける仕組みづくりをしました。
このように、行政の要望に応えるだけでなく、その一歩先を考えることで、住民のみなさん、地域のみなさん、そして保育施設やNPO団体など、だれもが笑顔になれる集合住宅が完成しました。
写真集
企画担当からのメッセージ
「ザ・パークハウス 戸塚」は、公有地の使い方をあらかじめ地域や事業者にヒアリングしたうえで公募するという横浜市として初めての試みでした。したがって前例がなく、この案件がうまくいかなければ続かないのではないかという思いがありました。
私たちは、なんとしても成功に導きたいと考え、横浜市から出された“お題”以上の提案をしたいと考えました。そこで、待機児童の問題を解決できるような集合住宅づくりを提案したのです。ただマンションを建てるというだけでなく、地域の課題を解決し、街を活性化させることが求められたのが、「ザ・パークハウス 戸塚」の計画の概要です。
保育施設だけでなく学童保育、ただの防災施設ではなく地域の防災空間といったように、居住者の方はもちろん、周辺地域の役に立てるような提案を行ったつもりです。さらに、コミュニティスペースの設置や防災用の井戸の設置など、自分で購入するつもりで細部にまで気を配りました。
その甲斐あって「まちとつながるコミュニティの形成」といったテーマが評価され、「ザ・パークハウス 戸塚」は2014年のグッドデザイン賞を受賞いたしました。住まいをご提供するだけでなく、街づくりに貢献したいという思いが評価されたことを、嬉しく思うとともに誇りに感じています。
半年で企画をまとめるのは難儀でしたが、いま、担当して本当によかったと思っています。