エコノミストに聞く!2020年、五輪ロスはある?新築マンション価格はどうなる?

エコノミストに聞く!
2020年、五輪ロスはある?新築マンション価格はどうなる?

[住まい選びの基礎知識]

2020年02月07日

今年は、いよいよ56年ぶり2度目の夏季五輪が東京で開催されます。前大会の翌年に「昭和40年(1965年)不況」が起きたことから、今回の五輪後も、日本経済が失速するという“五輪ロス”への懸念がささやかれているようです。また、2020年の新築マンション市場には、どう影響するのでしょうか。不動産・五輪・観光などの分析に強いエコノミストの宮嶋貴之さんに解説していただきました。

【五輪ロス】東京オリンピック後に不動産価格は大きく値下がりするのか?

「“五輪ロス”といわれるのは、建設ブームなど、開催前の特需が大会が終わると急になくなるというイメージが先行している面が大きいでしょう。実際には、五輪が短期の景気循環に大きなインパクトをもたらす可能性は低いと思います」

と、宮嶋さんは“五輪ロス”に懐疑的です。それは、1990年代以降に開かれた7つの夏季五輪の結果からも明らかだというのです。各都市で五輪の開催が決まってからの経済成長率の推移をまとめた図1-1をご覧ください。

図1-1.1990年代以降の夏季五輪開催国の実質GDP成長率の推移

*開催年は、バルセロナとアトランタは開催決定後6年目、それ以外は同7年目
(出典:みずほ総合研究所『日本経済は五輪ロスに陥るのか(2018年12月5日)』より)

五輪開催年の翌年に経済成長率が落ちたのは7大会のうち4大会あります。「やはり五輪ロスが一般的だ」と思うかも知れませんが、宮嶋さんは反論します。
「4つの大会のうち、バルセロナ、シドニー、北京は、五輪終了が要因で景気が悪化したわけではありません。いずれもヨーロッパ通貨危機、ITバブル崩壊、リーマンショックなど世界的な経済危機とタイミングが重なったことが主因です。唯一、五輪要因といえるのがアテネ大会でしょう」

では、今度の東京大会で、アテネと同じようになる心配はないのでしょうか。
「実は、アテネの例は1964年の東京五輪後の不況と似ています。前回の東京では、日本がまだ高度経済成長期の最中で、五輪開催の決定を機に新幹線や首都高速などの大型のインフラ整備を始め、建設投資が加速していました。しかし、五輪後に建設投資が減速したことが一因で不況に陥ったわけです。アテネ五輪時も、インフラ整備や競技場建設などの新たな建設投資の特需が急拡大し、その反動も大きかった。山高ければ谷深しということです。

一方、現在の東京は既に世界でも指折りのビッグシティになっています。五輪開催が決定した2013年以降に建設工事が増加したのは確かですが、再開発が中心という側面が強く、大きな山にはなっていません。人手不足が足かせとなり、建設ラッシュが起こりにくい状況です。したがって、前回の東京やアテネのように山と谷は大きくならず、五輪要因によって日本経済が深刻な景気後退に陥る可能性は低いと考えます」

図1-2.五輪開催都市の住宅価格の比較

(出典:国際決裁銀行(BIS)、米国連邦住宅金融庁(FHFA)より、みずほ総合研究所作成)

景気動向と住宅価格の関係はどうでしょうか。
「近年の夏季五輪の開催後に住宅価格が下落したケースは少ないと思います」と宮嶋さんは指摘します。図1-2は五輪の開催をはさんで住宅価格がどう動いたかを示したグラフです。五輪後に景気が悪化したアテネやシドニーでも、住宅価格は落ちていません。五輪後に一時的に横ばいになったケースはありますが、その後、持ち直して上昇傾向に転じています。
「東京の住宅は、そもそも五輪に向けて盛り上がっていません。今後の価格動向も、人口動態や雇用・所得環境などの要因がより大きく影響するでしょう」

【2019年の平均価格】低下の背景は?

次に、2019年までのマンション市場を振り返ってみましょう。図2は、首都圏における新築マンションの価格推移(1m2当たり単価)です。これを見ると、2019年に入る前後から、新築マンションの価格は、横ばいからやや下がり気味の状態になっています。売れ行きのバロメーターといわれた初月契約率(売り出し開始月の契約率)も、好調の目安となる70%を下回る状態が続いていることから、「売り上げが悪化しているために、デベロッパーはさらに価格を下げるのではないか」という声も出ていますが…。

図2.首都圏・新築マンションの㎡単価推移(半期)

(出典:不動産経済研究所のデータを基に編集部で作成)

「都心部や駅前再開発エリアのような高価格帯の割合がやや減っていることが、平均価格を押し下げている要因の一つでしょう。売れ行きが悪くて値下げするという指摘もあまり出ていません。そもそも、最近のデベロッパーは初月契約率を従来ほど重視していないようです。年間契約率(※)という概念でいえば、2019年は2018年より改善しています。つまり、必ずしも売れ行きが大きく悪化しているわけではないとも評価できます」

当年に新規販売された総戸数のうち、当年に契約された戸数の割合を「年間契約率」とすると、2019年1~11月は80%。初月契約率は、同62.9%(不動産経済研究所のデータを基に試算)。

駅から遠いなどの立地条件によってマンションが値下がりするケースや、専有面積をやや小さくして1戸当たりの価格を抑えるケースはあります。しかし、利便性の高い場所で、同じグレードのマンションが大幅に値下がりしているわけではないといえるでしょう。

【首都圏新築マンションの価格相場】をベンチマーク

そもそも現在のマンション価格は、かつてのバブル期のような異常な高価格なのでしょうか。いくつかの角度から検証してみました。

1.世界の不動産と比べると…

図3.マンション価格水準の国際的な比較

(出典:日本不動産研究所『第13回 国際不動産価格賃料指数(2019年10月時点)』「マンション/高級住宅(ハイエンドクラス)の価格水準比較」を基に編集部で作成。東京は港区元麻布の価格水準)

図3は、世界の主要都市におけるもっとも高価格のマンションの専有面積あたりの分譲単価をベースに、東京を100とした場合の指数を比較したものです(2019年10月時点)。東京は、香港やロンドンよりも大幅に低い水準で、上海や台北などの東アジアの都市にも及ばないことがわかります。
「世界的に見れば相対的に割安であるため、海外からのインバウンド投資が入る余地はまだあるでしょう」

2.マンション価格の年収倍率は、そんなに高い?

「マンション価格水準は、東京都では年収の10倍を超え、一般世帯にはますます手が届きにくくなっている」といった報道も目にしますが、より詳しいデータで検証してみましょう。図4をご覧ください。これは共働き世帯が増えている昨今の状況を踏まえ、世帯年収を地域別に試算したデータです。

図4.首都圏・新築マンションの世帯年収倍率(2018年)

(出典:みずほ総合研究所経済調査部『首都圏マンション価格は急落するのか(2019年2月8日)』より)

「片働き」(専業主婦世帯)の場合、東京都区部では確かに10倍近くになっていますが、その他の地域では6~7倍に止まっています。さらに「共働き」の場合は東京都区部でも7倍、その他は5~6倍と、それほど無理な水準とはいえないのではないでしょうか。

「現在の価格水準は、社会経済の構造変化を反映しています。共働き世帯が増加(※)し、家事・育児・介護に時間を充てるために、少しでも駅に近い、オフィスに近いマンションを買いたいというニーズが高くなっていることです。住宅ローンの低金利が長く続いていることも、以前のバブル期との違いの一つでしょう。夫婦それぞれの年収を合算するなど、世帯年収が高い世帯であれば、低金利を活用して現状のような価格水準のマンションを購入できるわけです。こうした需要に支えられた価格帯になっているといえます」

リクルート住まいカンパニー『2018年首都圏新築マンション契約者動向調査』によると、購入者のうち既婚世帯の共働き比率は66%。

つまり、実際の需要を反映しているため、“バブル的な高値”というのは無理があるといえるでしょう。

【2020年以降の新築マンション価格】購入環境はどうなる?

最後に、2020年の経済情勢や住宅購入に大きな影響を与える金利動向などを踏まえて、今後の新築マンション価格について、宮嶋さんの予測をうかがいました。

<景気>2020年は大崩れしない

<景気>2020年は大崩れしない

「米中摩擦の激化により世界経済の急速な失速を懸念する声もありますが、2020年については、その可能性は低いと思います。アメリカはもともと財政出動も相まって景気が好調でしたが、利下げの効果が来年も景気を下支えする見込みです。EU(欧州連合)のECB(欧州中央銀行)も量的緩和を再開しました。中国もインフラ投資を積極化しようとしています。日本も、10兆円経済対策を組んで景気下支えを始めます。

このように世界中で景気対策に動いている効果が2020年に表れるため、この1年は、景気が大きく崩れる可能性は低いでしょう。2021年以降はまだ不透明です」

<金利>低金利状態が続く

「現在の低金利状態が終わる公算は小さいでしょう。低インフレ環境が続きますから、2020年の日米欧の金融政策は総じて据え置きという展開の見込みです。少なくとも2020年中に住宅ローン金利が大幅に上昇するおそれは小さいでしょう。

現在、世界中で超長期国債の“100年債”発行について議論されているほど、金利の見通しは楽観的。半分ジョークで“永遠のゼロ”といわれているくらいです」

<マンション価格>大幅下落の懸念は小さい

1.需要面

「購入者の取得能力に影響する雇用・所得環境は、今のところ大きく崩れる懸念は小さいです。共働き世帯の増加や超低金利の後押しもあり、高価格帯のマンションに手が届く購入者層は今後も減らないと思われます。利便性の高い立地、時短ニーズに応える機能を備えたマンションへの需要が根強いため、大きく値下がりする可能性は低いでしょう」

2.供給面

「建設投資全体がスローダウンするため、資材価格が多少は下がるかもしれませんが、人手不足による人件費高騰は続くため、トータルで見た建設コストが大幅に下落する可能性は低いと見ています。好立地のマンション用地の地価も値下がりしにくいだけに、マンション価格の値下げ余地は小さいということです」

<注目エリア>五輪後の臨海地域に活性化の可能性

最後に、エコノミストから見た注目エリアを挙げてもらいました。
「臨海エリアを中心に整備された施設など、五輪のレガシーを活かして経済活性化につなげるため、このエリアを中心に再開発は今後も続くと予測されます。また五輪後に観光立国の機運が高まることで、羽田空港やリニア新幹線のターミナル周辺などで、観光につながる開発プロジェクトに力を入れていくでしょう」

2020年度税制改正について、住宅関連で眼玉となる項目はありません。ただ、消費増税に対応した「住宅ローン控除の期間延長措置(10年→13年)」を受けられるのは、2020年末までとなっています。景気、価格動向、税制を踏まえると2020年に行動することにメリットがある方は少なくないのではないでしょうか。

<宮嶋貴之さんプロフィール>

宮嶋貴之さん

みずほ総合研究所 経済調査部 主任エコノミスト

2009年慶應義塾大学院経済学研究科修士課程修了。同年、みずほ総合研究所入社。2011年8月から内閣府に出向、政策調査員として「月例経済報告」「経済財政白書」等を作成。2013年8月に同総研アジア調査部に復帰。2016年4月に経済調査部に移り、2018年4月から高度デジタル情報解析室兼任。『データブック 格差で読む日本経済』(共著、岩波書店)、『激震 原油安経済』(共著、日本経済新聞出版社)など著書多数。NHK「日曜討論」、日本テレビ「news every」などにも出演、寄稿。

TEXT: 木村元紀
PHOTO: 村山雄一

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