次のグリーンは香りで選ぶ〜ワンランク上の植物の楽しみ方
2023年10月24日
街路樹から、家の庭先から、道を歩いているだけで香ってくる花の香りに季節を感じることはありませんか。
日本は四季がはっきりしていて、それぞれの季節を花や木々が教えてくれる自然豊かな国です。ドアを開けたとき部屋から漂ってくる香りに「家に帰ってきた」と思え、それが自分が育てている花や木々からの「お帰りなさい」の言葉だとしたら、どんなに素敵でしょう。
観葉植物を飾りたい、バルコニーで育ててみたいという方は多いと思いますが、家に置く植物を「香り」をテーマに選んでみるのはいかがでしょうか 。プロトリーフ・清水柾孝さんに香りが印象的な植物と育てるコツを伺いました。
もともと植物の香りは生存のため。人には心を豊かにする贅沢なアイテム
「実はお客様から、香りがある植物を教えてほしいというご要望は意外に多いのです。」
在宅ワークなども進み、家にいる時間が多くなっている昨今は、植物への関心も高くなっているそう。植物は花の美しさや緑の癒し、そして香りとさまざまな表情をみせてくれる生き物です。
でもなぜ植物の香りは、ここまで人を惹きつけるのでしょうか。植物からどうして香りが出てくるのか、教えていただきました。
「植物の香りには2つのパターンがあり、ひとつは花から香りがするもの、そしてもうひとつは葉から香るもので、それぞれ理由が違います。
花から放たれる香りは、蜂や蝶など受粉を手伝うポリネーター(受粉媒介者)を引きつけるためと言われていますが、実はまだ明確には分かってないところも多く、今も研究が行われています。
葉から香りがするのは、それとは真逆で虫などの外敵から身を守るためです。
葉や樹皮から虫が嫌がる香り成分を出して寄せ付けないようにしています。」
(株)プロトリーフ 清水さん
虫が嫌がる成分が入った香りでも、人にとっては清々しく感じられたりします。その香りを嗅ぐことで、心が落ち着いたり身体がスッキリしたり。他の動物と違って、人間の嗅覚は生活を豊かにするための贅沢な使い方をしているようです。
季節を代表する植物とオススメのひと花
季節を感じさせる様々な植物の香り。
室内もしくはバルコニーで育てられる植物の中で、おすすめの花を聞いてみました。
まずは春から行きましょう。
「春は花々に溢れ香りもたくさんありますが、中でもハゴロモジャスミンなど、ジャスミン系の花は華やかで甘さのある香りが人々を惹きつけるでしょう。バラやユリなども、香料に使われるくらい印象的な香りですね。
私がオススメなのは、ヒヤシンス。春の若葉のような爽やかな香りは春の訪れを感じさせるものです。色も豊富で花自体も可愛らしいですし、水耕栽培にすると根の成長も見られるので、その様子が楽しめるのもいいですね。」
子どもの頃、学校でよく見た「ヒヤシンス」。実は爽やかな香りで春を告げる花 ※提供写真
夏の香りがいい植物といえば、すぐに思いつくのはハーブです。
「ラベンダー、中でもイングリッシュラベンダーは初夏から咲き始め、穏やかな安らぐ香りがします。また、バジルやミントなども育てやすくて、刺激を与えると揮発性の物質として香りが広がるため葉っぱを触ると清涼感のある香りが立ち上ります。」
「濃く甘い香りの代表としては、クチナシなどもありますが、オススメしたいのは月下美人。
この花はサボテンの一種で、夏の夜に一度だけ花を咲かせます。甘く上品な香りで、咲くと部屋いっぱいに良い香りがします。育てやすいし、花も綺麗ですので、ぜひトライしてみてください。」
夏の夜に一度だけ咲かすというところも、育て甲斐がありそうな「月下美人」。きつすぎない上品な香りが楽しめます ※提供写真
「秋の香りの良い花ですぐに思いつくのは、キンモクセイでしょう。家先から漂ってくる香りを嗅ぐと「秋が来たな」って思われる方も多いのではないでしょうか。庭木のイメージが強いですが、バルコニーでも十分育てることができます。
冬の花も、ウメやロウバイなど香りの強いものが多いです。これらはポリネーター(受粉媒介者)を確保するためと言われています。」
ここで清水さんオススメの花をもうひとつ。
「カトレアです。実はカトレアはほぼ1年を通して開花する花で、冬の時期は15℃以上室温を保てる室内が適しています。花の美しさはもちろんのこと、上品な香りを放つので、室内が華やかになります。」
ゴージャスで華やかな「カトレア・ルースジー」。香りでもうっとりさせてくれそうです ※提供写真
料理や部屋の飾りにも。香りを活かした使い方をご紹介
どのようなタイプの家具を置いても、そこにあるだけで存在感を与えるグリーン。見た目の美しさに加えて、香りを楽しむ空間にするのも上級者の楽しみ方(室内イメージ)
植物そのものの香りを活かして、料理やリースなどを楽しむこともできます。
ハーブ類はその筆頭でしょう。
ミントやローズマリーなどハーブ類は、清涼感を活かして飲み物に添えたり、肉・魚料理に使ったりすることがよく知られています。スーパーの青果売り場にあるフレッシュハーブを、水を入れたコップに刺しておけば根が出てくるので、それを植えて増やすことも簡単。何種類かを寄せ植えにして、料理やデザートなどに、ちょっとしたアクセントとして使うこともできます。
「アロマティカスという多肉質のハーブがありますが、さっぱりした良い香りです。たくさん葉をつけるのでモコモコした見た目も可愛いですが、私は葉を数枚、炭酸水やリキュールに加えたり、ハーブティーにしています。また、ブルーベリーやクランベリーなどのベリー類は花自体は香りがあまり強くないのですが、実をジャムにすると甘酸っぱい香りがします。これも香りを楽しむひとつでしょう。」
力強く青々とした香りの「ローズマリー」。肉料理の臭み取りのほか、お風呂に浮かべてもいい
また、冬の時期になるとクリスマスリースやスワッグを飾るご家庭も多いと思います。
「リースの材料にヒバやヒノキなどを使うと、フレッシュな葉や樹皮から針葉樹特有の爽快感のある香りがして心地よいですね。」
直接、日光やエアコンの風が当たらない場所で、緑と香りをキープするため霧吹きで水をかけると長持ちするそうです。
植物には「光」が大事。初心者でも育てられるポイントと注意点
いつも植物を枯らしてしまって、上手く育てられないという方もいらっしゃると思います。
初心者でも育てやすい香りの良い植物と育てるポイントを聞いてみました。
「ゼラニウム系の植物は、バルコニーでも室内でも育てやすいです。可愛らしい花も年中咲きますし、独特の香りで虫も寄りにくい。ハーブ類はどれも一般的に育てやすいですね。」
先ほどオススメで出たサボテン科の月下美人も、ラン科のカトレアも、コツさえ掴めば育てやすいとのこと。植物全般に言えるのは、バルコニーでも室内でも、日当たりと風通しの良い場所を選ぶというのがポイントだそうです。
「特に光は重視してほしいですね。日当たりがあまり良くない部屋でも植物用のLEDライトを利用するなど、ちょっとした工夫で植物は元気に育ちます。」
背の高い樹木系の植物は目隠しに、ハーブ類は虫除けや料理などにと、グリーンは多彩な使い方が可能(バルコニーイメージ)
そして土にも気をつけてほしいそうです。
「今は室内用の土のほか、虫が寄りにくい土など、用途や環境に合わせた土が販売されています。肥料で使用されている有機物が原因で、カビやキノコが生えてしまうこともありますので、適切な土を使用することで、人にも植物にもストレスがなくなります。」
また猫や犬を飼っている人は、香りの強い植物は避けた方がいいのでしょうか。
「植物の強い香りをペットは好まないというのはありますが、香りそのものに毒性はありません。香りとは違いますが、観葉植物の樹液などは毒性があるので避けた方がいいです。」
花を愛で葉を慈しむ。その上の楽しみ方が「香り」
「植物の香りというのは、気分転換や季節を感じる、緊張をほぐすなど、人それぞれの楽しみ方があります。グリーンの鮮やかさや花の美しさから植物を好きになる方が多いと思いますが、自分で育てた植物がすくすく成長し開花して、そして良い香りを楽しむというのは、ワンランク上の楽しみ方だと思います。香りは生活を豊かにしてくれるものですので、ぜひ皆さんに取り入れてほしいと思います。」
(テキスト)山田江理子
(インタビュー写真)清水タケシ
プロトリーフ ガーデンアイランド玉川店
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