こぐれひでこの暮らしの仲間見た目はキュート、働きぶりはエキスパート
2020年03月23日
東京やパリで十数回の引越しを繰り返してきた筆者が、これまでの自身の暮らしを彩ってきた「暮らしの仲間」について語ります。第2回は、パリの蚤の市で一目惚れした、収納力と機動力をあわせ持つ自慢の仲間をご紹介。
わが家のL.D.K.はL字型をしている。L字の角にあるアイランドキッチンに立つと、右手にリビングスペース、正面にダイニングスペースが見渡せる。アハッ、「見渡す」なんて言うほど広いわけじゃないのだが、その地点に立つと、領土を眺めて満足する領主みたいな気分になる。小さいけれど我が陣地。ここに立つと不遜にも領土を見下ろしているような充足感が生まれるのだ。
キッチンとダイニングの中間地点左手に、木製のワゴンがある。世間でよく見かける実用一点張りのものとは違い、このワゴンには多分、「オシャレさんである」という自負があり、はたまた「実用面でも優れている」という自信もある(ような気がする)。
パリの蚤の市の片隅で売られていたこのワゴンは「ʼ50年代」のものだという。一目惚れした。私の「好き」がいっぱい詰め込まれたデザインだったのである。その出会いから、かれこれ30年、私は今でも惚れている。


躯体は無垢のチーク材。色は経年変化で深みを増した黄土色といったらいいだろうか。ワゴンを操作するためのハンドルには深緑色のビニールが巻いてある。ハンドルの下にはアイアンワークが取り付けられていて、その奥に収納される瓶類が滑り落ちないようになっている(ここには750mlのワインボトルが20本収納可能)。その上段にはカフェオレボウルを収納できるスペースあり。キャスターは古色蒼然としているが、クルクルとよく動く。

ハンドルの反対側に目を移すと、深緑色のつまみが2つあり、横に引くとカーブを描いて扉が開く。中は4つの空間に区切られていて、小さなグラスや器などが収納できる。扉の上段にはミルクピッチャーなどの大きさの食器収納が可能。棚板の側面は銅板が巻いてあり、鈍い光を発する(ささやかな重厚感がいい感じ)。
どっしりとした安定感とカジュアルな軽妙さがバランスよく交じり合っているところ、茶系の色と深緑色のシックな配色、レトロ過ぎずモダン過ぎず、という、そんなデザインが私好み。

いつもはこのワゴンの中にボトルやボウルやグラスなど、めいっぱい収納しているのだが、ホームパーティーを開くときは、その日に使うワインボトルやグラスや器などだけを入れておき、誰でもセルフで取り出せるようにしておく。
家具としての魅力、収納器具としての実力、そして移動式テーブルとしての機動力……これは間違いなく、自慢の仲間である。
イラスト、文=こぐれひでこ
大学卒業後、1972年から3年間パリで暮らす。帰国後、服飾デザイナーとして活躍し、イラストレーター・エッセイストに転身。1989年パリにアパートを購入し、その後13年間パリと東京の二重生活をしていた。著書に『こんな家に住んだ』(立風書房)など。