秋以降の新築マンション価格は?長期トレンドの統計解析から予測

秋以降の新築マンション価格は?長期トレンドの統計解析から予測

[住まい選びの基礎知識]

首都圏の新築マンション価格が上昇し始めてから約10年。右肩上がりの動きは底堅い需要に支えられて来ました。なぜ、これほど長い活況が続いているのでしょうか。今後の動きはどうなるのでしょうか。
ニッセイ基礎研究所の主任研究員・吉田資さんが長期的な統計分析に基づいて作成した独自の「東京23区の新築マンション価格指数」を基に、これまでの価格動向と2023年秋以降の展望について伺いました。

3つのフェーズに分かれる東京23区の新築マンション価格の長期トレンド

マンションの価格推移を示すグラフを見ると、「線がデコボコしていて、傾向がよくわからない」と感じる人が多いかもしれません。マスメディアで一般に出回っているこれらのグラフは、販売された物件のすべての価格を単純平均したデータを基にしているからです。
今回取り上げる「東京23区の新築マンション価格指数」は、平均販売価格の動きとは異なる非常に滑らかなカーブを描いています(図1)。そこで、新たな指数を作成した理由から聞いてみました。

「販売物件の価格を単純平均したデータの場合、個別物件の属性による影響が少なくありません。
例えば、ある時期に都心で億ションのような高額物件がまとまって販売されると、全体の平均価格が引きずられて上がってしまうでしょう。
しかし、立地やスペックが同じ条件のマンション価格が変化したわけではありません。
そこで、実際の市況の変化と傾向を客観的に見るために、データの品質調整(※1)を行い、専門的な統計解析をして指数化しました」

※1
品質調整に用いた説明変数は、「都心から最寄り駅までの所要時間」「鉄道沿線」「最寄り駅から物件までの所要時間」「行政区」「用途地域」「専有面積」「間取り」など。

ニッセイ基礎研究所の主任研究員・吉田資さん

ニッセイ基礎研究所の主任研究員・吉田資さん

指数の基になるデータは、2005年から2022年までの18年間に、東京23区で販売された物件の約9割をカバーしています。
これをエリア別に示した図1をご覧ください。

図1.新築マンション価格指数(2005年=100)

*エリア区分…「都心」:千代田区・中央区・港区・渋谷区・新宿区・文京区/「南西部」:品川区・目黒区・大田区・世田谷区・杉並区・中野区/「北部」:北区:板橋区・練馬区・豊島区/「東部」:台東区・墨田区・荒川区・足立区・葛飾区・江東区・江戸川区

東京23区における新築マンション価格の長期的なトレンドが、かなりイメージしやすくなったのではないでしょうか。明らかに次の3つのフェーズに分類できます。

Ⅰ.2005~2008年:リーマンショック前までの価格上昇期(上昇フェーズ①)

Ⅱ.2009~2012年:リーマンショック後の価格下降期(下降フェーズ)

Ⅲ.2013年~:アベノミクス以降の価格上昇期(上昇フェーズ②)

大きな流れとしては全体的に同じですが、エリアの変動率には違いがあります。

「価格の下降フェーズでは、都心も周辺部も下がり方に大きな差はありません。都心は値下がりしにくいというイメージは必ずしも実態を反映していないことがわかります。
しかし上昇フェーズでは、4つのエリアのうち都心の上昇率が高くなっている点は注目すべきでしょう。
品川区や世田谷区などを含む南西部の上昇率は2番目に高くなっています。都心部に次いで住宅エリアとして人気があることを反映していると言えます」

具体的な上昇率の違いを図2に示しました。上昇フェーズでは、「都心→南西部→北部または東部」の順番。下降フェーズでは地域による差はほとんどありません。

図2.新築マンション価格指数・各フェーズの変動率

マンション価格の上昇を支える子育てファミリー層の増加

都心の新築マンション価格の上昇率が特に高い理由について考えてみましょう。マスメディアでは「投資家や富裕層が中心に購入しているからでは?」「バブルではないか?」といった批判的な報道も少なくありませんが……。

「確かに都心は投資目的の購入も多く、経済動向や金融政策の動向に敏感に反応するため、値上がりするタイミングが早い面もあります。ただ、主要な購入者層は、一般ファミリー層の実需目的と言えます。
というのも、首都圏における新築マンション購入者の世帯別シェアは「夫婦のみ世帯」がもっとも多く、次いで「未就学児のいる夫婦世帯」になっているからです。2つの世帯を合わせると購入者全体の3分の2を占めます。どちらの世帯も東京23区では大幅に増加しています(※2)。つまり、これらの世帯が東京23区の新築マンション需要を支えているというわけです。
さらに、『夫婦のみ世帯』と『未就学児のいる夫婦世帯』の動きをエリア別に調べると、都心部の増加率が他のエリアに比べて高くなっています。2つの世帯が都心部で顕著に増えていることが、価格の上昇率を押し上げている大きな要因の1つに挙げられます」

※2
購入者の世帯構成の出典は、リクルート住まいカンパニー「首都圏新築マンション契約者動向調査」で、「夫婦のみ世帯」が36%、「子供あり(第1 子小学校入学前)世帯」が30%で合計66%(2022年)。世帯数の増加率は、総務省「国勢調査」で「夫婦のみ世帯」は2005年から2020年までに19%増加、「夫婦と子供からなる世帯」(6歳未満の子どもあり)は同27%増加。

図3-1.未就学児のいる夫婦世帯の推移
図3-2.夫婦のみ世帯の推移

図3-1は、いわゆる子育てファミリー世帯の動向を東京23区のエリア別に示したグラフです。明らかに都心で急増していることがわかります。
23区平均は15年間で3割弱の増加なのに対して、都心は8割以上も増えており、突出しています。『夫婦のみ世帯』(図3-2)も子育てファミリー世帯ほどではありませんが、23区平均より都心のほうが増加率は高めです。

以前なら、子育てファミリー世帯は、自然の豊かな郊外で伸び伸び育てたいというニーズが強く、都心は敬遠されるイメージでした。都心に子育てファミリー世帯の注目が集まっている要因は何でしょうか。

「小学校に上がる前のお子さんがいる世帯が都心で伸びているのは、共働き世帯の増加と関係しています。共働きと子育てを両立するために、保育園の送り迎えに便利な都心部で、かつ駅近を望む傾向があるからです。
都心のマンションは価格帯が高いものの、共働きならダブルローンや収入合算で購入能力を高められますから、広さを少し抑えてでも都心に住むほうを選ぶのではないでしょうか。
専有面積や最寄り駅からの距離と価格の相関を見る統計分析も行いましたが、“広さ”の優先度が下がり“駅近”を重視する傾向が高まっていることが確認されました」

通勤時間が短ければ、子どもとの時間も十分にとれるでしょう。都心では、一戸建てよりもマンションのほうが供給量は多く、選択肢も広いため、結果としてマンション需要が押し上げられているようです。
また以前なら、将来の子どもの成長を視野に入れて、初めから終の棲家として大型の一戸建てを選ぶ傾向もありました。しかし最近では、ライフステージに合せて、その時々に最適な住宅に柔軟に住み替える考え方も広がっています。こうした暮らし方の多様化が、都心のファミリー層の増加につながっているのでしょう。

図1の価格指数の上昇率が都心に次いで高かった南西部は、子育てファミリー世帯の増加率も23区平均よりやや高めになっています。対照的に、東部は子育てファミリー世帯がほとんど増えていません。利便性という点では、どちらも大差ないと思われます。利便性が変わらないなら、子育てファミリーは緑豊かな住宅地を選ぶ志向が強いのでしょう。

一方、「夫婦のみ世帯」は、東部でも増加しています。世帯収入の多いディンクス(子どものいない共働き夫婦)、いわゆるパワーカップルが東部の湾岸エリアに多いタワーマンションを購入しているのかもしれません。

この先、新築マンション価格はどう動くのか?

新築マンション価格指数を読み解いていくと、今後の市況はどうなっていくのでしょうか。吉田さんは「供給量のインパクトも大きい」と指摘します。

図4.価格と供給量の逆相関

図4は、東京23区の新築マンション価格指数に、同エリアの供給戸数の推移を重ね合わせたグラフです。
価格が上昇フェーズにある時期は供給戸数が減り、価格の下降フェーズでは供給戸数が増加。再び価格が上昇フェーズになると供給戸数が減少し始めています。価格と供給量が正反対の動きをしていることがわかるでしょう。

「国土交通省の『今後望ましい住宅形態』に関する調査で、東京圏ではマンションを挙げる割合が年々高まるなど、マンションを購入したいニーズは継続的に増えています。需要が底堅い中で、供給量が減れば価格が上がるのは経済学のセオリーです。用地取得難や建築分野の人手不足を踏まえると、今後も新規供給量が増える可能性は低いため、価格が低下しにくい状況が続くと考えられるでしょう。

ただし、価格が今後どう動くかは、住宅ローン金利の影響も大きいと思います。購入意欲を持ち“買い時”だと考える人の理由の第1は“低金利だから”という理由が多い。7月下旬に日銀が金融政策を一部変更し、長期金利がやや上向く動きも出ています。今後の状況次第では、需要が弱まって価格上昇が頭打ちになり、状況が変化する可能性は否定できないでしょう。」

これから買うなら、資金計画と地域選びがポイント

では、住まい選びについて、どのような注意をすればよいでしょうか。

「これからマンションを購入しようと考えているなら、仮に金利が上がったとしても返済に困らないようにシミュレーションをして、頭金を増やして借り入れを抑えるなど、余裕のある資金計画を立てておくことが賢明です。

また、地域選びを見直すのも1つの方法です。例えば、23区に比べて相対的に価格帯が低いものの、新線新駅が開通して都心へのアクセスが向上したエリアもあります。こうした利便性の高いマンションに選択肢を広げて検討するのも良いでしょう」

例えば、2023年3月に東急・相鉄新横浜線が開業して東京都心部へダイレクトにつながった横浜市南部エリア。同じ時期に、「幕張豊砂」駅が新駅として開業した千葉県のJR京葉線沿線エリアなどが挙げられます。

以上のような点を考えあわせると、慎重な資金計画と柔軟な地域選びが、今後の住まい探しでは重要になりそうです。

<プロフィール>

吉田資さん

吉田資さん

㈱ニッセイ基礎研究所・金融研究部 不動産投資チーム 主任研究員。
住信基礎研究所(2007年入所。現・三井住友トラスト基礎研究所)を経て、2018年より現職。
専門分野は、国内の不動産市場、不動産金融。2020年度から一般社団法人不動産証券化協会・資格教育小委員会分科会委員に就任。
著書に『全国住宅・マンション供給調査 企業別ランキング 2022年版』(共著)

TEXT:木村元紀
PHOTO:村山雄一

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