2022年下半期のマンション市場を不動産鑑定士が読み解く

2022年下半期のマンション市場を不動産鑑定士が読み解く

[住まい選びの基礎知識]

2022年09月07日

コロナ禍が続く中、マンション価格は新築・中古ともに上昇しながら、好調な売れ行きを維持しています。2022年の秋以降も、この状況は続くのでしょうか。在庫水準や住宅市場の規模などの様々な角度から、ニッセイ基礎研究所の研究員で不動産鑑定士の渡邊布味子さんが解説します。

新築マンション市場の現状はバブル? 長期推移で見る

図1.首都圏新築マンションの発売戸数と平均価格

首都圏で発売された新築マンションの平均価格は、2022年上半期に6,500万円を超えました。過去最高レベルの高水準です。「新築マンション価格が1990年のバブル期超え」といったニュースが報道され、「バブルの再来ではないか」などの論調も出ています。これに対して、現状の新築マンション市場の評価について渡邊さんはこう解説します。

「前回のバブル期は、地価高騰を背景に、2,000万円台後半からピークの6,000万円台まで、わずか数年で急上昇しています。マンション価格だけでなく株価も急伸し、資産価格の値上がり期待を背景にした投機的な動きもありました。その後、金利が大幅に上がり、マンション価格、地価ともに急落したのが当時の状況です」(渡邊さん)

具体的な数字を見てみると、首都圏における新築マンションの平均価格は1986年の2,758万円から1990年の6,123万円へ、4年で約2.2倍。公示地価(首都圏住宅地)は1988年に前年比プラス68.6%に達しました。ところが、民間住宅ローン金利(変動型)が1889 年の6%台から翌1990年に8%台へ上がると、新築マンションの売れ行きのバロメーターと言われる初月契約率は50%台まで落ち込み、価格はピークから5年後の1995年に4,148万円へと3割以上も値下がりしています。まさにジェットコースターのような市場でした。一方、現在の水準はどうでしょう。

「2010年代初めに4,000万円台で安定していた時期から、時間をかけて緩やかに上昇しています。駆け込み需要も見られません。初月契約率が70%台の好調な水準を維持しているのは、この10年来続く超低金利を背景に、自ら住むために買う実需に支えられているからです。地価もバブル期ほど大きな上下はありません。これらの点がバブル期とは明らかに異なります」 (渡邊さん)

徐々に価格上昇しながら、売れ行きが衰えない理由は何でしょうか。

「中古マンションの価格も上昇しているため、今は多少高いと思っても、先行きの上昇期待から頑張って購入しようという判断もあるようです。ここ3~5年に購入した人は、買い換えたときに実際に価格が上昇した経験を持つ人も少なくありません。居住目的だけでなく、投資的な観点も考えあわせて価値の下がりにくいマンションを買う“半住半投”というスタイルも広がっています。住宅市場に対するプラスのイメージが刷り込まれているとも言えるでしょう」 (渡邊さん)

在庫水準から読み解く、現在のポジション

現在のマンション市場が実需に支えられていることは、在庫水準に表れています。

図2.マンションの販売在庫推移(首都圏・月次)

※在庫戸数:発売月に売れずに継続して販売中の物件戸数(小数点第三位は四捨五入して表記)。

まず、新築マンションの在庫戸数を見ると、比較的落ち着いた動きをしています(図2参照)。1万戸を超えたのは、過去20年近くの間で、2008年のリーマンショック前後のみ。直近1年は5000~6000戸で推移しています。なぜ価格が上昇しても売れ行きが衰えず、在庫水準は低いのでしょうか。

「新築マンションの在庫が低い水準で推移しているのは、新規供給量そのものが少ないからです。その要因の1つが用地取得難でしょう。
価格が高水準になり、立地やプランを含めた住まいのクオリティに対する購入者層のこだわりが以前にも増して高まっていますが、こうしたニーズに適したマンション用地は限られます。ディベロッパー側も、ニーズを検討して、取得したいと思うような用地がなかなか見つからないことも、供給量の減少につながっていると考えられます。
高まる需要に合わせて供給を増やすことは容易ではありません。それでも、購入者のニーズにマッチしたマンションを供給できているために、その戦略が功を奏して、売れ行きが良く在庫も増えないのでしょう」 (渡邊さん)

一方、中古マンションの在庫は大きな波を描いています。中古の売主は個人が中心のため、新築のデベロッパーのような計画的な供給はできません。価格が上昇すると、売却意欲も高まり、売り物件数が増えます。その結果、価格が手ごろで競争力のある物件が先に売れて割高な物件が売れ残り、在庫が増えていくわけです。在庫が積み上がれば、価格低下につながると考えられます。

しかし、今回はこのようなサイクルにはなっていません。2019年の消費増税の前後にマンション市場全体が低迷して在庫が積み上がった後、中古マンションの価格は下がらずにむしろ上昇が続き、同時に在庫が大幅に減少しました。その理由について渡邊さんは、こう解説します。

「新型コロナ禍が始まった2020年春は住宅市場が一時減速しました。
同年秋から、テレワーク拡大で広さや書斎を求める住宅需要が急速に高まった時に、急に供給を増やせない新築マンションは “コロナ特需”に応えられませんでした。旺盛な需要が中古マンションに流れ込み、すごい勢いで在庫が減ったわけです。加えて昨今は、築年数が古くても内装設備は新築並みのリノベーション済み中古マンションの供給が増えていることも、新築から中古へ需要がシフトした要因の1つでしょう。

ただ、これまでのデータから気になる傾向が浮かび上がっています。『直近でもっとも減少したボトム月の在庫戸数から、増加率が5%以上のプラスになると、そのまま増加傾向に転じる』という法則です。過去20年近くの間に、この現象が2007年初頭、2010年半ば、2015年半ばの3回に渡って繰り返し起きています。そして、2022年6月の在庫戸数は、直近のボトム月である2021年6月から既に10%を超えるプラスになりました。中古マンションの在庫の中に割高な物件が増加し、価格の値下がり圧力が増している可能性があります」(渡邊さん)

新築マンションの市場規模は妥当な水準との差が小さい

渡邊さんは、マンション市場を見る上で住宅の市場規模も重要だと語ります。首都圏におけるマンションの取引件数に平均価格を乗じた価額を市場規模と捉えて、新築と中古に分けて長期推移を示したのが図3です。グラフ内の点線は、過去15年間のデータを解析した「妥当な水準」を示しています。

図3.マンションの市場規模(首都圏・12カ月移動累計)

※市場規模:新築マンションは「月次発売戸数×平均発売価格」、中古マンションは「月次成約戸数×平均成約価格」。「妥当な水準」は、調査範囲を線形回帰分析し、価額の山と谷が理論的に収斂していく中心レベルを推定したもの。

「新築マンションの市場規模は、2022年3月に新型コロナ禍前の水準を回復しましたが、新規供給が少ない状態で推移しており、あまり拡大していません。人口が減少する中で市場規模もダウントレンドにあります。また、リーマンショック時やコロナ禍のように“妥当な水準”から大きく離れて波打っていた時期に比べて、現状は“妥当な水準”との差は小さいと言えるでしょう。ただし、価格は調査史上において最高水準であることには注意が必要です。

中古マンションの市場規模については、一貫して拡大しました。しかも、以前は“妥当な水準”とのズレがほとんどない時期が続いていましたが、この1~2年は大きく超過している状態です。中古ストックは増え続け、空き家も増加する中で、過去のトレンドから見ると“売れすぎ”と言えるかもしれません」 (渡邊さん)

在庫と市場規模の分析を基に現状を整理すると、
新築マンション:在庫は低水準が続く/価格は調査史上最高水準/取引量の減少が大きく、市場規模は相対的に拡大が小さい→価格は下がりにくい
中古マンション:在庫が拡大に転じる/価格は調査史上最高水準/取引量の増加も大きく市場規模は妥当な水準から大きく乖離→価格に調整が入る可能性あり
と言えるかもしれません。

この秋以降に買うときのポイント

最後に、住宅購入を検討している方に向けて渡邊さんからアドバイスをもらいました。

「現在の住宅価格は、底堅い実需に支えられてきた面が強いため、在庫の積み上がりや市場規模の妥当な水準からの乖離がない限り、多少の経済変動があっても値下がりしにくい状況にあると言えます。なぜなら住宅購入は一生に一度とも言える“ハレ”の活動ですから、少し頑張れば手が届く価格であれば、より良いものを買おうと考える方が多いからです。少なくともこの秋から来年春までの半年くらいの間に、大きく動く可能性は低いでしょう。
もともと住宅購入のきっかけは、結婚や出産、転職などの人生イベントが一般的です。この時期にそのタイミングを迎え、気に入った住宅に出あえたなら購入してもよいのではないでしょうか。もちろん、無理に借り入れを増やしてまで購入するのはリスクが伴います。現在の購入能力と購入後の生涯収支をよく計算することが大切です」 (渡邊さん)

ここまでマンション市場について多角的に検証してきました。皆さんの住宅購入計画の参考にしてください。

<プロフィール>

渡邊布味子さん

渡邊布味子さん

ニッセイ基礎研究所・金融研究部不動産投資チーム准主任研究員。不動産鑑定士、宅地建物取引士、不動産証券化協会認定マスター。2000年、東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行、不動産融資業務に携わる。2006年、総合不動産会社に入社し、住宅から事業用まで幅広い不動産の開発、販売を手掛ける。2018年5月より現職。不動産投資を始め、居住用マンションからオフィス・ホテルまで、多数の不動産関連のレポートを定期的に発信中。

TEXT:木村元紀
PHOTO:豊島正直

おすすめの物件

住まい選びの基礎知識 新着記事

一覧

閉じる
SNS gallery
お気に入りに追加されました

お気に入り一覧へ

まとめて資料請求できるのは5件までです

OK

お気に入りに登録にするには
会員登録が必要です

会員登録するとマイページ内でお気に入り物件を確認することができます。

会員登録