プロフェッショナルの目線 Vol.11 自分らしい本棚をつくる。

プロフェッショナルの目線 Vol.11 自分らしい本棚をつくる。

[暮らしのアイデア]

2017年11月01日

従来の型にはまらない本棚づくりで注目を集めるブックディレクター、幅允孝さんに、増え続ける本との向き合い方・つき合い方をうかがいます。

話=幅 允孝(ブックディレクター)
選書集団「BACH」代表。1976年愛知県生まれ。慶應義塾大学卒業後「青山ブックセンター」、編集プロダクション「ジェイ・アイ」を経て独立。国立新美術館「スーベニアフロムトーキョー」、「ジャパン・ハウス サンパウロ」など、多彩な本棚づくりを担当。

text by Seishi Isozaki
photos by Teruyuki Yoshimura

目線1

"紙の本"の存在意義と本棚の役割。

読書家の両親のもと、幼い頃から好きなだけ本を読ませてもらえた僕は、読書を通してさまざまな感動を味わい、健やかに楽しく生きるためのヒントを得てきました。今でも本は日々の糧であり、読めば自分の血となり肉となると感じています。インターネットメディアが発達し、電子書籍も広く普及するようになった今でも、僕は紙の本を買い続け、アイディアに行き詰まったときには本棚の前に立ちます。データ化したタイトルや著者名のみを見て思い出せることは多くありませんが、紙の本だと背表紙を見るだけで、書いてある内容、どこで買ったか、そのときどんな気持ちだったかなどを瞬時に思い起こすことができるんです。


つまり本は僕の記憶や知識の断片で、本棚はその集合体。いわば〝自分の来歴を映す鏡〞のような存在です。皆さんも、よそのお宅の本棚を見て、なんとなく家人の人となりを想像できたことはないでしょうか。一冊一冊はただの本でも、何冊か集まると独特の雰囲気が生まれる。それぞれの本棚に、持ち主のアイデンティティーが反映されているのです。


ブックディレクターとしての僕は、他者の好奇心や興味を喚起することを目的に本棚をつくっているので、本を選ぶのと同じくらい「選んだ本をどう差し出すか」に心を砕き、空間演出も綿密に計画します。でも家の本棚は「自分だけのもの」ですから、格好をつける必要はありません。漫画でも古びた雑誌でも、もう何年も手に取っていない本でも、思い入れがあるものは見える場所に並べておくし、多少雑然としていてもお構いなし。ひとり静かに、心穏やかに本と向き合えるよう、本棚の前に座り心地のいい椅子と、できればサイドテーブルのひとつも置けば十分だと思っています。


でももし、皆さんが本棚に求める役割が〝自身の承認欲求を満たすこと〞、つまり人から「いいね」と言ってもらうことだとしたら、下世話な本はどこかに隠し、見栄えのいい本だけをきれいに並べたほうがいいでしょう。自身の来歴を表す本棚と自己承認欲求を満たす本棚。どちらがいいということではなく、「どちらのタイプの本棚をつくりたいか」を判断することが〝自分らしい本棚づくり〞の第一歩。「自分は後者だ」と思ったら、格好よさにとことんこだわった本棚づくりを楽しんでいただきたいと思います。

サイズやジャンルの異なる本を、混ぜて置くのが幅さん流。絵本から洋書まで、幅広いラインナップに驚かされる。本棚の内寸が40㎝あれば、文庫本から大型本まで無理なく収めることができるそう。

サイズやジャンルの異なる本を、混ぜて置くのが幅さん流。絵本から洋書まで、幅広いラインナップに驚かされる。本棚の内寸が40㎝あれば、文庫本から大型本まで無理なく収めることができるそう。

目線2

子どもの感性を育む本を選ぶ。

右/うさぎの女の子がつくったワンピースが次々と模様を変えていく『わたしのワンピース』(にしまきかやこ作/こぐま社/1969)は親子で楽しめるロングセラー。左/雑誌『ヴォーグ』などで活躍するティム・ウォーカーの写真集『Tim Walker Pictures』(TeNeues Pub Group; Alternate版 /2015) も、寓話的な世界観で子どもの興味を引きつける。

右/うさぎの女の子がつくったワンピースが次々と模様を変えていく『わたしのワンピース』(にしまきかやこ作/こぐま社/1969)は親子で楽しめるロングセラー。
左/雑誌『ヴォーグ』などで活躍するティム・ウォーカーの写真集『Tim Walker Pictures』(TeNeues Pub Group; Alternate版 /2015) も、寓話的な世界観で子どもの興味を引きつける。

職業柄、「読み聞かせに向く本」をよく聞かれるのですが、僕としては、ご自身が本当に面白いと思った本を読んであげればいいと思っています。親御さんの心を動かした本なら、きっとお子さんも興味を持つはず。喜んだり、驚いたり、笑ったり……そうしたさまざまな感情を親子で共有してほしいと思います。


僕が子どもの本棚をつくるときは、意図的に大人の本も混ぜるようにしています。子どもは子ども扱いされるのを嫌うので、子ども受けを狙った本ばかりにしないほうがいいのです。以前、洋書のファッション写真集を保育園に持ち込んだときのこと。「英語の本なんて……」と戸惑う保育士さんを尻目に、園児たちは絵本を読むときと同じように、ページをめくってはしゃいでいました。高級メゾンの白いドレスを見て、「これを着てお嫁に行く!」と叫んだ女の子もいたんですよ。僕はこの無垢な感性を大事にしたい。この子もあと数年で分別がつくようになり、無邪気に「これを着る」とは言わなくなるでしょう。知識や理屈に邪魔されることなく、純粋な眼差しでものと向き合えるこの時期だからこそ、版元が設定した対象年齢に縛られることなく、さまざまな本に出合ってほしいと思います。

僕が子どもの頃の話をすると、応接間に「読んではいけない本棚」がありました。少々なまめかしい近代文学が置いてあっただけなのですが、「ダメ」と言われたら読むしかないでしょう(笑)。「この本を読みなさい」と言うと、子どもはかえって興味を失います。皆さんも、お子さんに読ませたい本があるときは、「読んじゃダメ」と言ってから本棚に置いてみてはいかがでしょうか。

目線3

くくり方と置き方を工夫し、自分らしく、美しく。

仕事でもプライベートでも、僕はあえていろいろなサイズ・ジャンルの本を混ぜて本棚に置くようにしています。たとえば「夕飯づくりを助けるコーナー」とか、「勉強したくないときに読む本コーナー」とか、自分なりのくくり方で本を並べていくのは楽しいし、自然と自分らしい本棚が出来上がっていきます。


見た目をきれいに整えたいなら、本の背表紙を棚板の前面にそろえて並べましょう。さらに見栄えをよくしたいときは、両サイドに背の高い本を、中央に向かって背の低い本を並べるようにします。棚に縦板がない場合は、ブックエンドを使い、まっすぐに立てるのがベスト。「これ」というブックエンドが見つからない場合は、大きめの石などで代用しても構いません。アウトドアでブックエンド用の石を探すのも一興でしょう。


増える一方の本を僕がどうしているかというと、特に思い入れの強い本は自分に近い場所に、そうでもない本は隣の部屋や物置など、少し離れた場所に置いています。これから読む本は事務所のデスクの上が定位置。自宅のトイレの棚には〝いつか読む本〞を積んでいます。なかなか読む気になれない〝積読(つんどく)本〞でも、日常的に目につく場所に置いておくと、「今日は行けそうな気がする」と思える日が来るんです。皆さんもそういう本は大事に手元に置いてほしいと思います。読まないといけない本などありませんが、本との出合いをふいにするのはもったいない。本は待ってくれますから、焦らず、気長に構えるのがいちばんです。

棚の上に並べる場合はブックエンドを使い、本がたわまないようにする。ブックエンドは大きめの石などで代用してもいい。

棚の上に並べる場合はブックエンドを使い、本がたわまないようにする。ブックエンドは大きめの石などで代用してもいい。

背表紙を棚板の前面にそろえて並べると整然とした印象に。両サイドから中央に、凹型の弧を描くように並べると、遠目にも美しい。

背表紙を棚板の前面にそろえて並べると整然とした印象に。両サイドから中央に、凹型の弧を描くように並べると、遠目にも美しい。

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