ザ・パークハウス ものづくりの、物語。名宿の記憶を偲んで。 ~ひとまちストーリー vol.3~
2021年09月22日
かつて、多くの文人が居を構えた文京区本郷。
この地で創業し、一世紀以上を誇る老舗旅館『朝陽館本家』の
跡地に誕生した、<ザ・パークハウス 本郷>。
地権者である当主の「地域への想い」を汲み、
街とつながる風景を描きながら
名宿の記憶を次の時代へと受け継ぐプロジェクトを追う。
受け継ぎ、つなげる。街の景色と名宿の記憶。
夏目漱石や樋口一葉など、名だたる文豪が街に集い作品を生み出してきた文京区本郷。
明治時代以降は、学生向けの下宿屋や旅館が集まる旅館街を形成し大いに栄えたという。時代が移り変わるにつれ、宿泊施設は老朽化や後継者不足により次々と廃業。付近はマンション街が立ち並ぶエリアへと姿を変えた。
<ザ・パークハウス 本郷>は、同じく老朽化により廃業を決意した老舗旅館『朝陽館本家』の跡地に建っている。

かつてこの地にあった純和風旅館『朝陽館本家』
用地取得から施工、引き渡しまで携わり、当主の想いに寄り添い続けた三菱地所レジデンスの鈴木は言う。
「『朝陽館本家』は、旅館街の最後の一軒として変わりゆく街を見守ってきました。我々が提案する建設プランを受け入れていただけたのは、長くこの街に暮らし、今後も住み続けたいという当主のご意向に沿うことができたからだと思います」。

旅館の中庭を再現した灯籠の路地
112年続いた『朝陽館本家』。そのイメージを随所に散りばめ、街の風景とつながりながら旅館の面影を次の時代に受け継ぐ設計コンセプトが地権者の心を動かした。
周辺エリアの植栽と連携し、四季の潤いを生み出した路地空間
街に四季の彩りを添え、潤いを生み出す路地空間。
街角には戦災を免れた煉瓦塀が残るなど、過去と未来が交錯する本郷エリア。本郷弓町には地域のご神木として親しまれる推定樹齢600年超のクスの巨木が聳えるなど、豊かな自然も息づいている。
「等価交換により、引き続き居住される地権者様のために、1階のテラスを囲む壁は伝統的な築地塀風に。さらに壁の高さに変化をつけることで、往時と同じ街の風景を望めるように工夫しました」と鈴木は語る。

移設された石灯籠をはじめ、数多くの庭石等を再利用
そして、このプロジェクトの見どころといえば、エントランスに向かって右側に続く「灯籠の路地」だろう。
名宿の記憶をモチーフとした共用部には、街の人に親しまれ、『朝陽館本家』のシンボルとなっていた石灯籠を移設。さらに100種類以上あった敷石や庭石など、かつて旅館で使用されていた石材の性質や年代などを調査。安全性を確かめたうえで適切に再利用する提案は当主を驚かせた。

往時の風景と重なる築地塀が、外観に和の情緒感を演出

エントランスやバルコニーの天井を木調とし、木造旅館の面影を再生
「植栽においても、サクラやツツジなどが目をひく周辺の緑と呼応するようにイロハモミジやカツラなどを配し、街全体で日本の四季を感じられるようにしました。地域にひらきながら、周辺の街並みとも連続する季節の彩りを添えています」。
それは、長きにわたりこの地で旅館を営んできた当主の街への愛情や想いを具現化した場所ともいえるだろう。
和の情緒感を再生し、新たな憩いの空間を創出。
建物のディテールに目をむけてみよう。外観には瓦をモチーフとしたリブ面状のブラックタイルと、左官による塗り壁をイメージしたマットな質感のタイルを採用。
エントランスのある西面1階から3階までの大部分は大判のストーンタイルで仕上げ、落ち着いた雰囲気を描き出している。また、バルコニーの天井を木調化することでより和の情緒感を高めた。

一本の木から掘りだしたアートスクリーンが共用部に趣を添える
「迎賓の間」と名付けられた共用ラウンジからは庭の景色を大きなガラスの開口部から愉しむことができる。
石卓は対面する庭の石卓とシンメトリーに配置され、外へと続く一枚テーブルのような物語性のある設えだ。

清流をイメージしたエレベーターホール前の坪庭
路地を歩く人の姿を眺めながら、地権者であるT氏は語る。
「『朝陽館本家』の歴史や、地域とのつながり。それを存分に活かしてくれたのが<ザ・パークハウス 本郷>の提案でした。街にひらいた路地はいま、近隣の皆さんが気持ちよさそうに利用してくれる場所ともなり、うれしい限り。本当にいいものができたと満足しています」。

三代目当主の子息であり地権者のT氏
エントランスホールから一段下がったラウンジ空間「迎賓の間」
文京区本郷の小高い丘の上に建つ、<ザ・パークハウス 本郷>。地上14階建てのレジデンスは、この地で一世紀以上続いた老舗旅館に代わり、人々の暮らしを温かく見守り始めた。